複雑・ファジー小説

Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照4000突破感謝! ( No.242 )
日時: 2016/02/23 03:53
名前: ユッケ (ID: 3ib433J1)

溜り場の廃ビルから街に出る。いつもの事だが、裏路地から明るく賑わいのある道に出るので温度差というかギャップに飲み込まれる。

暗いところから急に明るいところへ出るので、少しばかり目が痛い。

コンビニやまだ営業中のお店から光が溢れてくる。おまけにファミレスや居酒屋からは食欲をそそるとても良い匂いが漂ってきている。

時刻は19時半。お腹も空く頃だ。帰ったら何を作ろう? 冷蔵庫にアサリがあったはずだし、ボンゴレビアンコにしようか?

献立を考えながら歩いていると、とある人物がふと目に映った。

「あれって……」

間違いない、今まさに裏路地に入って行った2人はまさしく、九十九 神矢と百目鬼 大地だ。

王国のメンバーであり、九十九 神矢は能力学区成績第2位の人物。そのうえレイラを目の敵にしていて以前激闘を繰り広げた。

「裏路地に入って行ったな……気になるし追ってみよう」

ということで2人を尾行してみる事にする。

迷いなくどんどんと奥に向かっていく2人、何度か角も曲がった。

適当にフラフラしているって感じじゃない。明確な目的地があって、ルートが頭の中に完全にインプットされている。

もしかしたら、王国のアジトに向かっているのか?

息も足音も殺しながら、2人の後をつける…………そして2人はとある廃ビルの中に入って行った。

(ここがアジトなのか? う〜ん、とにかく追ってみるしかないか)

そっとビルの中に入り、足元の物や大きなガラス片に気をつけながら身を潜める。

2人は足音など一切気にせずにどんどん上の階を目指し、4階に上って行った。

急に引き返されても困るので、僕は3階で息を潜めて待機する。しかし、ここまで何にもなかったし、他の王国メンバーがいたとかそういうのもない。いったいここに何があるんだろうか?

ますますに謎が深まってきたその時だった。

「ぎゃああああああああああああああああ!!!」

ビルの中に男の悲鳴が鳴り響いた。

気になった僕は急いで4階に上がり、廊下に面した部屋の中を壁に背をつけて隠れながらこっそりと覗く……。

「チッ! またダミーかよ。こいつらも可哀想にな。キリエに勝手にダミーにされちまってよ」

「キッヒヒ! ちがいないねぇ。でもまあ、弱いくせに粋がるからこうなるんじゃない? キヒヒ」

九十九 神矢の足元には5人の男が倒れている。その傍らには鉄パイプとか木刀が転がっていた。

九十九 神矢は超能力者だ。並の人間が束になっても勝てるわけがない。

だが、これでようやく2人がここにいる理由が分かった。千香からもチラっとは聞いていた。九十九 神矢がキリエのアジトらしき場所を潰して回っていると……なるほど、今日僕はそれを見つけてしまったわけだ。

「帰るぞ、ここにもう用はねぇ」

足元に倒れている男を一度踏んで、踵を帰して部屋を出ようとする2人。このままでは鉢合わせする!

(やばっ!)

いきなりの事だったので焦ってしまった。急いで階段を降りようとしたが、石ころを蹴飛ばしてしまい、石が階段を転がる音がビル内に響いた。

「誰だッ!!」

(ヒィイイイイイッ!)

半分飛び降りるように階段を飛ばして駆け下りる。

顔は見られてないから大丈夫! 外に出ちゃえば見つからないはず!

そんな簡単には追いつかれない———

「よぉ、チート野郎」

———と思っていた時期が僕にもありました!

目の前に空間を引き裂いて現れた九十九 神矢。遅れて後ろから百目鬼 大地が到着。

挟まれた! 万事休す!

「こ、こんなとこで奇遇だね。ははは……」

「そぉだな。アン時の借り、今返させてもらおうか」

「今じゃなくてもいいんじゃあ……」

「キヒヒヒヒヒ、終わったね」

じわじわと距離を詰めてくる2人。

コレは本当にマズイ!!

もうダメだと思ったその時、九十九 神矢の視線が僕から外れた。

「そこか!! 穏行緩んでんぞ!!」

何もない筈の虚空に九十九 神矢が空間を引き裂いて攻撃する。

何が起きたのか解らない。見えない何かがいるという事なのだろうか?

混乱していると何かに手を掴まれた。

「うわぁっ!」

「一緒に来て……」

そのまま一緒に走り出してビルから出る。

僕はいったい何に手を引かれているんだ?

「今あなたも私も透明になっているから、奴はもう追ってこれない」

「この声……もしかしてナギサさん?」

「そう、昨日会ったばかりなのに因果なものだね」

「あなたには聞きたいことがあるんだ」

「何を聞かれるのかな? とにかく逃げ切ってからね」

裏路地を透明のまま駆ける。

暫く走って、後ろを振り返ると闇が広がっているだけで人の姿は無かった。どうやら撒いたらしい。

「ハァ……ハァ……ここまで逃げれば大丈夫でしょ。透明になっていれば音も消えるの。まだ手は離さないでね。透明なのは触れているのが条件だから」

「うん、わかっ———!」

「テメェら、俺をナメてんのか?」

空間を引き裂き現れた九十九 神矢に、僕もナギサさんも能力でぶっ飛ばされる。

「なんで……見えないはずなのに……」

「ぁあ? んなもん俺が超能力者で、空間能力者だからに決まってんだろ、空間に生じる違和感に俺が気付かねぇわけねぇだろ。チッ! 最近やたら気配消して俺達のこと見てるなと思ったら、女かよ。
テメェ、キリエの差し金だろ? 覚悟しろよ? 女だからって容赦しねぇって言うけどよ、違うぜ、女だから容赦しねぇんだよ。手段はいくらでもあるからなぁ! 洗い浚い吐いてもらうぜ、キリエの情報をよぉ!」