複雑・ファジー小説
- Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照4000突破感謝! ( No.244 )
- 日時: 2016/03/02 18:00
- 名前: ユッケ (ID: 3ib433J1)
「え……仲間が……?」
仲間はキリエに殺された。淡々と言い放つナギサさん。
それでも……何で? 何で———
「ど、どうして! 仲間が殺されたのに……!」
みよりが耐え切れなくなって口を開く。
僕もみよりが先に言わなかったら言っていただろう……どうして仲間を殺したような人間の駒になっているのかと……。
「私の仲間は私の目の前で次々に殺されていった。奈々も沙良も小夜も愛梨も琢磨も伸二郎も、私の目の前で刺されて、撃たれて、飛び散って、潰されて、折られて、切り裂かれて、殺された。皆が私の目の前で鮮血を散らして—————」
「いやぁあああああああああああああああ!!」
みよりが耳を塞ぎしゃがみ込む。
想像しちゃったんだ……その最悪な凶行を……。
「みより! 大丈夫だから、な? ちょっと向こう行ってようぜ」
赤菜がみよりの肩を抱いてその場から少し離れる。
「何もそんなに詳細に説明しなくてもいいじゃないですか!!」
「そうッス! もっとこう……言い方ってのがあると思うッス!」
鈴也君が珍しく声を荒げる。それに同調して小春ちゃんもナギサさんを責める。
「すまない。怖がらせるつもりじゃなかった……私も思い出すのは辛いんだ」
ナギサさんにとって、それは強烈に脳裏に焼きついてしまっているのだろう。彼女も被害者なのだ。
「それで、黒猫にゃんこはなぜキリエ側についたのですか? 大体の予想はつきますけど」
「私は目の前で仲間が殺され、次は私だと思った時、彼に命を乞うたのだ。殺さないで下さいと、何でもするから殺さないでくれと」
「仲間が、殺されたんだよ? その男に……どうして命乞いなんかできるの?」
音羽の声は震えていた。それはナギサさんへの怒りか、それともキリエに対する怒りか……多分、両方だ。
「私は生きたい。ただひたすらに生きたいのだ。死ぬのは嫌だ。生きる為なら私は何だってする」
ナギサさんの言葉からは、死への恐怖と生への執着が溢れていた。彼女を非難するような事は出来ないと僕は思った。
目の前に、絶対的な死の恐怖があり、死がその影をこちらへ伸ばしてきた時、果たして僕は死を簡単に受け入れるだろうか…………。
「アンタがキリエ側にいる理由は解ったわ。聞きたい事はもう1つあるのよ。最近頻発してる犯人不明の連続殺人事件。犯人はアナタなんじゃないの?」
「人間の屑を殺しまわっている見えない殺人鬼……でしょ? 透明化能力を持っている私以外にいる?」
あっさりと認めた。隠す必要も無いと踏んだのか……。
「キリエの命令か」
「ええ、その通り。彼の邪魔者を排除する代わりに、私は生かされている」
「だから九十九 神矢も見張っていた?」
「……アイツの監視は私の仕事だったけど、今日は違う、私の独断である人物をずっと監視していた。結果アイツにバレてこうなっただけ」
「それって……」
「そう、監視していたのはお前。三好 祐。昨日私とぶつかって服に血が着いたお前」
「なるほど、警察に通報しようものならグサりと行ってたわけですな。僕っ子は九死に一生を得ましたね。セフトセフト〜」
「セフトってほぼアウトだよ! じゃなくて!! ナギサさんはこれからも僕を監視する?」
「どうだかね。でも勘違いされるような行動、言動は慎んだ方が良いと思うよ。私なら誰にも気付かれずに殺———」
バチンッ! と、乾いた音が夜に響いた……。音羽が、ナギサさんの頬を平手打ちしたからだ。
ナギサさんの頬は赤くなっていて、音羽は怒りの表情に涙を浮かべていた。
「死にたくない死にたくないって、どの口が言ってんの……仲間を殺されたんでしょ! 自分は死にたくないって命乞いまでしたんでしょ! そんなアナタがなんで簡単に人を殺せるの! ふざっけんなっ!!」
「…………何も知らないからそう言える」
「———! このォ……!」
もう一度ナギサさんに、今度は拳を握って音羽が殴りかかろうとする。
「だ、ダメだって音羽!」
「離して! 一発殴らないと気がすまない!!」
「千年さん! 落ち着いてください!!」
怒りが収まらない音羽を、僕と鈴也君の男手2人で止める。
「アンタの事情はよく解ったわ。静原……でもね、三好に手を出したら、許さないから」
「覚えておくよ。…………」
そう言ってナギサさんは闇の中へと歩いて行った。もしかしたら今日も、これから誰かを殺すのかも知れない……。
「私……! 許せないよ……彼女の事……!」
音羽はそのまま地面にペタリと座り泣いた。
ナギサさんには、ナギサさんの事情があった。僕は、音羽のように彼女を非難する事は出来なかった。
誰が正しいなんてきっと無い。
僕らも、ナギサさんも、この世界に呪われているのだから……。
「……痛い……」
静原 ナギサは赤くなっている頬に手を当て、呟く。
「知ってしまった……私にとってこの世界は地獄でしかない。こんな世界、壊れてしまえばいい」
続けて呟いた言葉に、闇の中から誰かが応える。
「知ってしまった……か、お前はこの世界の呪いに触れたのだな」
闇の中から現れたのは七咲 千香。バジリスクだった。
「バジリスク……なんだ、私を殺しに来たのか」
「理由が無い。お前と話をしに来ただけだ。お前、“何も知らないからそう言える”と言ったな」
「そうだ、あの子は知らないから……この世界が呪われている事を」
「お前、人形に会ったな」
「…………」
「奴の能力も知ったんだな……」
「やめろ!! 考えたくない!」
「私もそうだった。死んだ方がマシだと、生きていて何の意味があるのだと、絶望した」
「———っ!」
静原 ナギサはバジリスクの胸倉を掴み、壁に押し付けて叫ぶ。
「貴方に私を助ける義理がないのはわかっている。だが、私は生きたい! 私には何も価値がないが生きたいのだ。だから、どうか頼む。私を救ってくれ! 本当はこんな自分、変えたいのだ。人殺しなんか、本当はしたくないんだ! 頼むよ…………」
「黒猫……静原 ナギサ……私達の側につけ!」
「キリエを裏切れと言うのか! そんな事をしたら……!」
「大丈夫だ。現に私は生きている。キリエがお前を殺しに来る事は絶対にない。今の奴はそれどころじゃない。だから私を信じろ。私が信じられないなら三好を信じろ」
「な、なんで三好 祐を?」
「私が三好を信じているからだ。それに、あいつの飯は美味い」