複雑・ファジー小説

Re: 超能力者の落ちこぼれ 参照5000突破感謝! ( No.268 )
日時: 2016/06/13 00:20
名前: ユッケ (ID: bKy24fC9)

■降格者■



王国は負けた。三好達が建物を出て数十分後、彼らは起きた。

「体……痛くてしゃーないわ。僕以外に起きてるやつおる?」

この羽織部 準に応えた声が一つだけあった。

「はーい、私……起きてるよー……ぃっっ」

「すまんなぁ、無理に戦わしてしもーて」

「謝んないでよ。私は本当に能力者優位の社会が作りたいの。充(ミツル)のような人をもう出さないためにも」

榎原 七海には幼馴染で好きな人がいた。円禅時 充(エンゼンジ ミツル)という人物だ。彼の家は大きな会社だった。充は能力者であった為、その力を生かし、中学生ながらに社長である親や会社に貢献するエリートであった。

しかし、その能力を妬み、嫉み、彼の精神を蝕む為に姑息で陰険な虐めを繰り返したのは、同じ会社の無能力者達だった。

日々繰り返される行為に彼の精神は崩壊し、彼は遂に会社の屋上から空へと舞い、自ら命を絶った。

「まださ……大好きも伝えてなかったし、そんな事全然相談してくれなかったし……私、ずっと後悔してる……」

「そうか……なら、僕らのリーダーを追いかけようか。剣さえおれば、僕らの夢は叶う。僕はそう信じてる」

「う〜わ、もしかしてアンタらってそういう関係なの? ドン引きだわ」

「いやいや、ただの親友や」

準が痛む体をおして立ち上がり、一歩踏み出した時だった。通路の奥から影がこちらへと向かってゆっくりと近づいてくるのが見えた。

現人神 剣の肩を支えて歩いてくる土御門 錦の姿だ。

「すまない、皆……王国の負けだ」

「剣は! 剣は無事なんか! 錦!」

「僕は大丈夫だ……体は痛むけどね」

「リーダー……私、負けちゃってごめんなさい」

「いいんだ。僕も彼には勝てなかったよ。……僕は皆に謝らなければならない事があるんだ。僕は———」

「取り込み中失礼する。王国諸君」

その声に場の空気が凍り付く。煙草を口に加え、不敵に笑うその人物。まさに災厄。能力学区の裏社会に君臨する危険人物。絶対に出会ってはいけない男。

「鷹東 キリエ!?」

「え! 嘘ッ!?」

「動くな、鷹東 キリエ」

「一体何しに来たんや……!」

「フッ……何しに? 現人神 剣を殺しに来たに決まってるだろう」

煙草を捨て、キリエが冷酷に言い放つ。その瞬間、準と錦が一斉に動く!

「させへんわ!」

「幽触!」

地面が隆起し、キリエに向かって斜めに伸びる! 更に青白い手が先の戦いで出来上がった瓦礫の山を次々に触って通過していく。

「……」

キリエが隆起した地面を軽々と躱し、その隆起し伸びてきた地面の槍を掴む。そしてその槍を半分ほどの大きさでブチ折る。

「んなアホな! 人間の力じゃ折れるわけないやろ!」

「そういう能力か? だが、俺の攻撃は避けれないぞ!」

幽触が次々と触れた瓦礫の山が浮き上がり、竜巻のように渦を巻き、列を成しキリエに襲い掛かる。

「所詮はその程度か王国の騎士」

キリエはさっきブチ折った地面の槍を、今度は襲い来る瓦礫の渦に向かって放り投げる。すると地面の槍が動く瓦礫を次々に貫通! 破壊していく。それも物凄いスピードで。

「な……!」

「準! 錦! 下がっていろ!!」

「やっとお出ましか」

「拒絶!!」

「っ!」

剣の否定と拒絶の超能力がキリエの体を吹き飛ばす。

「鷹東 キリエ。お前がどんな能力者だろうと、超能力者である僕には勝てないよ!」

「……フ……フフ……確かにな。超能力とは良いものだ。俺もそう〝だった……”」

「だった? まるで昔は超能力を持っていたかのような言い方だな」

「そのままの意味だよ。俺は〝原初”。日本で一番初めに超能力者として認定された男だ。そして、俺は降格者(ダウナー)だ」

「降格者?」

「超能力者であった俺だが、何が原因か大能力者に格が下がったのさ」

「能力の格が下がる?! そんな事が?」

「あるんだよ。日本政府は隠しているがな。まぁ、事例は俺一人しかいないだろうが」

「驚くべき話だ。だが、要は弱くなったって事だ! 僕に勝てない事実は変わらない! 拒絶!!」

「二度も同じ手が通用するとでも?」

剣がキリエを再び拒絶するが、キリエの後ろ側の壁が崩れただけだった。

「ど、どうして!」

「俺の能力は命令式(プログラミング)。あらゆるものに干渉し、命令式を埋め込む。例えば光に干渉し、強さや角度を命令式で変更すればお前たちが見ている俺と本当の俺の位置がズレる。さっきの地面の槍も、命令式を与える事で折り、強化し、軽量化し、目標に向かって高速で向かっていくよう命令したのさ」

そう言い、地面に手をつくキリエ。

「確かに恐ろしい能力だが!」

「タネが解ればどうもない! ただの能力や!」

「これで終わりだキリエ!」

三人が同時に能力を発動させる。地面が剣山のように無数の槍となってキリエを襲い、幽触が槍に纏わりつき、グネグネと複雑な動きを加える。その上、三人はキリエの声を聞いていた。先程のように認識している位置とズレている事が解るように、声で位置を確認していた。

「無駄だ。命令式!」

「否定!!!」

剣がキリエの能力の発動を否定する。そして複雑な動きであらゆる方向から襲い掛かる地面の槍がキリエに突き刺さる瞬間。

「だから無駄だと言っただろう」

地面の槍が突如方向を変え、逆を向き、剣、準、錦の三人に向かって襲い掛かる。

「馬鹿な!! 拒絶!!」

しかし、襲い来る無数の槍は拒絶される事なく三人を貫いていく。

「「「がぁあああああああああああ!!」」」

直撃こそ免れたが、今の攻撃だけで三人は傷だらけになり、体中から血が流れていた。

「命令式で既に否定と拒絶は無効化した。命令式を埋め込むのに時間はかからない。お前達の攻撃は反射出来るよう命令すれば届かない」

「く……そっ!」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

準が吠える! キリエの周りの地面が隆起、渦のように巻き、キリエを閉じ込める。

「逃げや剣!! お前が生きとけば僕らの夢は叶う!! せやから今は逃げぇ!!!」

「準!? ダメだ!」

「早よ行きぃ!! お前は僕らの希望なんや!!」

「お前もだ七海!! ここは俺と準が引き受ける!! 剣を連れて逃げろ!!」

「そんな……そんな事できないよ!!」

「やるんだよ!!! 早く行けぇえええええ!!!」

「つ、剣ぃ」

「…………行くぞ、七海。準! 錦! 絶対に死ぬなよ!!」

「モチのロンや!」

「後から追いかけるさ!」

剣と七海は走り出した。痛む体に鞭打ち、アジトを離れた。だが———

「お前はもう用済みだ。現人神 剣」

走る剣のバランスが崩れて転ぶ。そして右足に襲い来る痛みと熱。

「つ、剣ッ!! あ、……足……! 足が……ぁ……足がぁあああああああ!!!」

榎原 七海が青冷めた表情で泣きじゃくる。彼女が見たのはあまりにショッキングな現実。剣の右足が、太ももの半分辺りからスッパリと斬れていたのだ。

「ぐぁああああああああああああああ!!!!」

「ぁ……ぁぁ……」

「おかげで三好は本当の能力を思い出した。だからお前の役目はここで終わりだ。お前は初めから三好覚醒の為の生贄だったんだよ。姫のシナリオ通りにな」

「ぐッ! ぅうううううううあああああああああああ!!」

「痛いか……すぐに楽にしてやる」

地面が赤に染まるまで、そう時間は掛からなかった。全ては一瞬の出来事。人の生とは、いとも簡単に終わる。