複雑・ファジー小説

Re: 超能力者の落ちこぼれ(500参照突破感謝!) ( No.85 )
日時: 2015/03/26 20:26
名前: ユッケ (ID: GrzIRc85)

■伝染■




翌日のお昼の事である。

僕と音羽はとある場所に来ている。

僕はこういう場所は初めてなので緊張している。

こういう場所というのは、留置所である。

今日は音羽のお兄さん、慎也さんの面会に来たのだ。

音羽は何度か面会に来ているから小慣れた様子。

暫く待っていると、ウィンドウの向こうから警官と一緒に慎也さんが来た。

「お兄ちゃん、元気にしてる?」

「ああ、おかげで元気だ。三好君、本当に迷惑を掛けてしまったね。すまなかった」

「いえ、催眠が効いた様で良かったですよ」

パワーを服用してしまった慎也さんは、とても危険な状態にあった。

暴走、幻覚、被害妄想、善悪の区別がつかなくなり、慎也さんは実の妹である音羽にも危険な目に合わせてしまう所だった。

パワー服用によって目覚めた慎也さんの能力は“催眠”だった。

その能力を僕が超能力として使うことによって、薬物から更生出来るように催眠をかけた。

催眠でどれだけ更生させられるか正直不安だったけど、この様子なら大丈夫そうだ。

「パワーに関しては俺が覚えている事はないんだ。どれだけ思い出そうとしても、思い出せない……気付いた時にはもう、パワーが欲しくて堪らなかったんだ!」

「お、お兄ちゃん! 落ち着いて」

「慎也さん、思い出さないでください! 警察が動いてますから、大丈夫ですよ。だから、もう忘れましょう」

「あ…あぁ…すまない……そうだな…忘れた方がいい」

今慎也さんは催眠という細い糸で、理性を繋ぎ止めている状態だ。

あの日の感情を思い出してしまえば、きっとパワーを欲しくなってしまう。

能力が使えるという事が、無能力者にとってどれだけ魅力的な事か……それがパワーの恐ろしいところだ。

自分にもある筈なのに、目覚めない能力……周りとの差とか劣等感、そんなもどかしさを刺激して、パワーはその魔手を感染症のように広げている。

「あ、そうそう! 昨日は祐とみよりちゃんと赤菜ちゃんのダンスイベント見に行ったんだよ!」

音羽が話題を変えて場の空気を変えてくれた。

「そうなのか、俺もここから出れたら、ぜひ見てみたいな!」

それから面会時間の終了まで15分間、音羽は最近楽しかった事を慎也さんに話して、慎也さんを妹として励ました。

面会が終了して、僕達は留置所から出た。

僕は緊張から解放されグッとひと伸び、体を伸ばした。

「緊張した?」

「うん、とっても」

「私も初めは緊張したけど、もう慣れちゃった! ……さ、行こ! 祐。でも今日は帰さないよ〜」

「明日学校だよ?」

今日は音羽の住む部屋で晩御飯を一緒に作る予定だ。

本当は慎也さんと一緒に住んでいた部屋、独りだとやっぱり寂しいみたいだ。

最近は入院とか入院とかで(よく生きているなと思う)一緒に居てあげられなかったから、今日はその埋め合わせ。

「サボタージュ」

「しません」

「ケチー」

「学業こそ学生の本分!」

僕達は実はまだ食べていない昼食を求めて、街へと繰り出した。