複雑・ファジー小説

Re: 【ぷりーず】アウトロー!【オリキャラ】 ( No.13 )
日時: 2015/04/01 19:47
名前: 羊青 (ID: F2lwV46U)

第一章二話 「王宮からランナウェイ」

闇に包まれた廊下を、赤紫色の影が颯爽と駆け抜けた。
その姿を見たものは、見間違いかと思うだろう。なにしろ物音一つ立てていないのだ。大理石の廊下は、普通よりも音が響くだろうに、足音どころか衣擦れの音さえ聞こえない。

まあ、なんというか、カインはプロだった。

時には盗まれたことすら気づかせず、華麗に忍び込み優雅に盗む。
今回は警備を宝物庫に集中させるためにわざと姿を現したが、普通にお宝を頂戴するときはそんな危険は侵さないのだ。

まあ、その目的が「女中の純潔をいただく」という、残念なものではあるが。

「さーって、女中ちゃんはっと」

女中が寝泊まりしている部屋は地下にある。
音のない口笛を吹き下品な笑みを浮かべ、彼はそっと地下室への階段を——。


「……誰かいるんですか?」


動きを止め、ようとした思い直した。
女性の声だ。カインの好みよりは少し低いが、綺麗な声。
カインはとびきりの笑顔を作って声のほうを見た。

(……うっわ、上玉)

松明の光を浴びて濡れたように光る黒色の髪、しっとりとした白い肌、そして目を惹くのはエメラルドのように光る神秘的な瞳。
長いまつげに縁どられたその瞳をまっすぐ見据えながら、カインはおもむろに彼女の腰に手を回した。

可愛い女の子の登場に有頂天になっているカインの目には、彼女が着ている執事服なんぞ目に映らない。

体勢を崩し「ひゃ」と声を上げるその女性の唇に人差し指を当てて「しーっ」と囁く。腰周りや胸はかなり柔らかさに欠けるが問題ない。貧乳ッ娘も大歓迎だ。是非ともメイド服を着てもらいたい。
この子は背が高めで細くて足が長いから、ロングスカートもよく似合うだろう。エプロンは勿論白だが、スカートの色はなんだろうか。オーソドックスに紺? それとも敢えて深緑?
ここまで妄想を巡らすのに、およそ0,2秒。女のこととなったら、彼は人間の常識を超える。
カインは、女性の目から見れば蠱惑的だと自負している笑顔で囁いた。

「こんばんは、可愛らしい子羊さん、こんな夜中に出歩いていては恐ろしい狼に喰われてしまいますよ」

その歯が浮くようなセリフに、女性の顔は一瞬にして真っ青になった。目を白黒させて、松明を持った手を振り回そうとするが、その手を取って動きを封じてしまえば、あとはもがくだけだ。
非力な女性の反抗など……彼女の場合は少し力が強いが、まあ問題ない。「離してくださいっ、あの絶対なにか勘違いしてるんでその、とりあえず離せコラ!」随分乱暴な口調だ。だからといってストライクゾーンが広いカインが萎えるかというと、そうでもない。

「随分と乱暴な口をきくね。大丈夫だよ、痛くも怖くもない。目をつむっているうちに全てが終わる」
「終わられたら困るんですよっ! 離して! やめっ、うわああああああっ!?」

女性が言い返しているうちに、服の下へ手を潜り込ませる。服の上からでもわかったけれど、冷たくて薄い体だ。肉も筋肉もほとんどついていないのだろう。けれど痩せぎすという感じではなく、むしろスラリとしたいい印象を持たせる。カインはゆっくりとその手を上にずらしていく。制止する手を振りほどき、さあ、今こそ秘密の花園へ————!



「……あれっ」


さわさわさわさわ。


「あ、あれっ?」


さわさわさわさわさわさわ。


「ないっ! 全然ないっ! 微かな膨らみさえもみあたらないっ!」

さわさわさわさわさわさわさわさわさわさわ。


いつまでたっても動きをやめない手にしびれを切らしたのか、女性……いや、男性は、膝をおもいきり振り上げた。密着していたため、ばっちりがっつりカインの股間にヒットする。
可憐な女性あらため可憐な男性は、決していい意味ではなく顔を真っ赤にさせ、呻きながらうずくまったカインの背中をおもいきり蹴飛ばした。

「ぎゃんっ!?」

仰向けになったカインは、男が足を振り上げるのを感じた。しかしぼうぎょのたいせいをとるまえに、その足は下腹部へと振り下ろされる。

「いやああああああっ!!」

完全に死亡したカインを涙目で睨みつけながら、男は言った。

「最低ですね! 死んでください痴漢野郎! 私は、おとこ、ですっ!」

最後に、とどめを刺すかのように脛を踏みつけて、男は去っていった。
女誑しと名高いカインの半生において、「男を女と間違えて口説き、更には事に及ぼうとする」という汚点が生まれた瞬間であった。