複雑・ファジー小説
- Re: 【ぷりーず】アウトロー!【オリキャラ】 ( No.19 )
- 日時: 2015/04/02 20:30
- 名前: 羊青 (ID: F2lwV46U)
第一章閑話 「僕の知らない世界」
僕は、生まれてこのかたこの城を出たことがない。
それは別に僕のからだが弱いからとかではなく、僕以外に子供ができなくて、僕が唯一の国王候補だからなのだ。
父に兄弟はなく、母には女兄弟しかいない。古くからの掟として、この国を継げるのは男のみだと決まっている。
馬鹿げた男女差別だが、一介の王太子である僕にそれをどうこうする権限はない。
国王となればそれも変わるかもしれないが、どっちにしろ僕が王位を継ぐことは変わらない。
僕は、それが、堪らなく嫌だ。
僕の意思は反映されず、選択肢すらない未来。
閉ざされた世界だ。閉鎖空間だ。
ーーそんな僕に希望をくれたのは、一冊の「本」だった。
運動は好きだが、数学や歴史なんていうさほど役に立たない勉強は好きではない。そんな僕が、唯一嫌悪感を抱かず取り組める勉強が読書だった。
本の中には僕の知らない外の世界のことがたくさん書いてある。
外には魔物がいて、遥か昔には魔王がいて、英雄がその魔王を倒したらしい。
とても小さな異国の騎士は、針を武器にして魔物を倒し、魔法の道具で背を伸ばしお姫様と結ばれたらしい。
遠い国のお姫様は、継母に苛められながらも頑張っていると、魔女が御褒美をくれてカボチャの馬車で舞踏会に言ったらしい。
ーーそんな色とりどりな話のなかで、僕が一番気に入っているのは、義賊チェイカーの物語だ。
義賊のチェイカーは、強きを挫き弱きを助ける立派な信条を掲げている。ある日チェイカーが大きなお屋敷に忍び込むと、そこには囚われの幼い姫がいた。
彼女を不憫に思ったチェイカーは、一度だけ信条を破って姫をさらい出す。それから二人で旅して追手を倒して、世界中を冒険するのだ。
義賊チェイカーの物語は人気のシリーズで、筆者の意向により完結巻はまだ出ていない。
ーー読むたびにぞくぞくした。
ーー僕の目の前にもチェイカーが現れるのではないかと思った。
ーーまだ見ぬチェイカーを夢見て、僕は毎晩窓辺にたった。
どこかから、ひょいと三枚目でお調子者の盗賊があらわれないのかと。
「王子殿下! いけません!」
「煩いセリティアっ! お前は僕の執事だろう、少し黙ってろ!」
「いえ、ですが、外は危険ですってばぁ! 特に今は盗賊が出没してますし、よくわからない痴漢ま、でぇあっ!?」
僕は、必死で僕の腰にしがみつく執事を思いきり振り払った。一回り以上の歳の差があるとはいえ、彼の力は一般成人男性以下だ。毎日トレーニングをかかさず続けていたならば、子供の力でもらくらく蹴り倒せる。
「はぅんっ! 王子とならそんなプレイもっ......って王子殿下! いけませんってばぁあ!!」
後ろに気味の悪い声を聞きながら、僕は全速力で駆け出した。