複雑・ファジー小説
- Re: 【ぷりーず】アウトロー!【オリキャラ】 ( No.23 )
- 日時: 2015/04/03 20:14
- 名前: 羊青 (ID: F2lwV46U)
第二章三話 「王宮からランナウェイ」
「嘘だろなんで此処にいるんだよおおおっっ!?」
「弟の悲鳴が、聞こえてっ、きたからだああっ!」
赤毛の盗賊と、金髪の騎士。
現在絶賛鬼ごっこ中である。
何故こんなことになったかというと、少し遡って、カインのカインが致命傷を受けたところより少し前。
宝物庫の前で、騎士団長…スルージ=ハートレインは、妙な胸騒ぎを覚えていた。
「どうかされましたか、団長」
スルージの身につけている白銀の鎧とは対照的な漆黒の鎧の騎士が、不思議そうな顔で問いかけてきた。スルージは煮え切らない表情で手に持った剣を振る。
「いや……実は今日、弟が夜番らしくて……」
「ああ、心配されていたのですか」
納得したように頷くのは、スルージの部下であり副団長のゼルフ=ニーグラスだ。スルージよりいくらか深い金髪を持つ、なかなかの実力者である。
しかしスルージは、若き副団長に向けてさらに煮え切らない顔を作ってみせた。
「あの……わずか一キロ先に弟がいると思うと、この、なんか、興奮して落ち着かなくて……」
「気持ち悪っ!!」
いつでもクールな表情を崩さないことに定評のあるゼルフだったが、この時ばかりはさすがに引いた。
第一、いくらイケメンといえども三十路のおっさんが照れてるところからしてキモい。
そして、そのおっさんが、妹ならともかく弟(しかもいい年をした)にゾッコンというのが心底気持ち悪い。
いや、確かに、弟さんは綺麗だし女性にしか見えないし男性のファンクラブの人数もそこそこあったりするけども、ぶっちゃけゼルフの彼女のメイド‥‥‥リンに比べたらへちょいもんである。
と、こっそり彼女煩悩なゼルフは考える。
「……お前、今、俺の弟……セリティアの悪口かなんか思い浮かべなかったか?」
「いえ、まったく」
末恐ろしいブラコン野郎である。
そんなブラコン野郎の団長は、そわそわしながらも真面目に見張りをしていた。たった数分間のことだったが、その間はゼルフも、他の騎士団員たちも落ち着いていられた。
しかし。
「……セリティア?」
「はい? いも……ええと、弟さんがどうかされました?」
「……セリティアの悲鳴が聞こえた」
「は? え?」
「セリティアに危機が迫っている!!!」
そのたった数分間の後、スルージは突然わけのわからないことを騒ぎ始めた。
弟の悲鳴? そんなもの、ゼルフをはじめとする団員は聞いた覚えがない。
第一、スルージの弟が働いている場所は宝物庫から遠く離れた塔にあるのだ。その距離およそ一キロメートル。弟さんはオペラ歌手かなんかなのであろうか。いいや、彼は一介の執事である。そんな彼の声がここまで届くはずがない。
しかしそれでも、一度思い込んだ団長を止めるのは容易ではない。
例えば、ゼルフがこの場にいる団員たちほどの人数いたとして、その全部でスルージに襲いかかったとして。
それでも、勝てない。
それでも、スルージは勝つだろう。
それくらいの実力差がある相手を止めるのは、無理だ。
「第一部隊は宝物庫周辺の警備を! 第二部隊は宝物庫内へ! 第三部隊、宝物庫の上の部屋へ! 第四部隊はそれぞれ人での足りなさそうなところへまわれ! 今現在よりすべての判断はゼルフに託す! 頑張れ、以上っ!」
次の瞬間、ゼルフが羽織っている真紅のマントがぶわりと巻き上がった。
木の葉が舞い、土埃が目に入り、思わず顔を覆う。
はっと気付いた時にはもう、白銀の鎧はどこにも見えなくなっていた。
……そんな、実力者なのに。
「どうして弟のことでしか本気を出さないんだよあの変態ブラコン自由野郎が」
ゼルフが暴言を吐くくらいには、スルージは自由人だった。