複雑・ファジー小説

Re: 【ぷりーず】アウトロー!【オリキャラ】 ( No.30 )
日時: 2015/04/05 10:37
名前: 羊青 (ID: F2lwV46U)

第1章四話 「王宮からランナウェイ」


「あーーっ、もう! なんで鎧男の癖にそんなに走るの速いんだよーっ!?」
「愛のなせる技だ! とぅっ!」
「ぎゃんっ」

金髪の騎士の飛び蹴りが、カインの背中に華麗にヒットする。勢いを殺せず倒れ込むカインと、その上に乗り掛かる感じになるスルージ。腹が潰れそうな重さに、胃の中のものをリバースしそうになる。
これは、ヤバイ。
本能で危険を感じる。彼に武器を持たせたら、自分の首は永遠に胴体とバイバイすることになるだろう。
取り合えず、騎士の気をーーー逸らす。

「あ、あのさ、弟ってもしかして女の子みたいな人?」
「お前、やっぱり弟に何かしたのか!?」

無理だった。

「あ、や、そうではなくてですねお兄様?」
「貴様にお兄様などと呼ばれる筋合いはなーいっ! ......はっ!? お兄様、ということは、もしかして戻れないところまでいっちゃったのか!? とても口に出せないようなアヤシイ事をしてしまったのか!? 【ピーーー】とか【ピーーー】に【ピーーー】を【ピーーー】して【ピーーー】しちゃったんじゃないのか!?」
「いやいやいやいや思いっきり口に出しちゃってますから!? あと俺は男に手を出す趣味はないんで!!」

危うく出しかけたなどとは口が避けても言えない。さっきの女男が少し肥満体型で、うっすら体に肉がついていたならば、下を脱がすまで気づかなかったかもしれない。
ーーしかし、事実はどうあれ。

「......決闘だ」
「はい?」
「決闘だ! このまま捕らえるのでは俺の気がすまん!! 正面から打ち取ってやる!」

体の上から、ふいに重みが消える。ローリングして体勢を立て直すと、地面に白手袋がなげすてられた。
決闘の合図だ。これを拾うと決闘を承諾したことになる。
騎士団では無闇やたらに暴力を振るうことが禁じられている。が、この合図を前もってしておけば正式な決闘となり、「無闇やたらな暴力」とは一線を画することになるのだ。

真剣な目が、カインをじっと見つめる。
じり。焼けつくような緊張感。沈黙が流れ、お互いの息の音しか聞こえてこない。

ーーそのまま、数分間が経過した。

睨みあったまま、双方一歩も動かない。
スルージの額から汗が流れる。カインも緊張を少しも緩ませず、二人は相手が動くのを待つ。

ーーそのまま、数分間が経過した。

「......なぁ」
「......」
「手袋とれよ」
「え、嫌だ」
「嫌だじゃねーよ! 取れよ!!! こちとら足痺れてんだよ!」
「だってとったら決闘じゃん!? 嫌じゃん!? 俺負けるじゃん!? 嫌じゃん!!!」
「嫌じゃんじゃねーよ!! 子供か!! いーから取りやがれこの野郎!!」
「はーあ、仕方ないな......」

カインは身を屈めた。
勿論、拾うフリだ。拾ってたまるものか。闇討ちならまだしも、正面衝突の決闘で勝てるはずがない。

カインは逃げた。

相手の緊張が緩んだ瞬間、全速力で走り去った。
いくら相手が強者とはいえ、身軽な体に鎧でついていけるはずがない。
いや、さっきはついてこられていたのだが、そもそも自分も相手も体力がそんなに残っていない。

「あっこら、待てーーー! 卑怯者ーーー!」

叫ぶ声にも、微妙に元気がなくなっている。

カインは走った。
ーーその、思い切り振り上げた腕が。
なにか柔らかいものに掴まれる。
え、と思った次の瞬間、彼の意識は暗い闇のなかに落ちていったーーー。