複雑・ファジー小説
- Re: 【ぷりーず】アウトロー!【オリキャラ】 ( No.40 )
- 日時: 2015/04/11 22:25
- 名前: 羊青 (ID: F2lwV46U)
第一章六話 「王宮からランナウェイ」
「......いや、あの、何言ってるんすか? む、無理ですよ?」
カインは当然ながら断った。普段使わない敬語に媚びへつらった笑みを貼り付け、揉み手をしながら腰を低くする。
どう見ても卑屈なモブキャラ、といったポーズにロイズは気を悪くした風もなくケロリと言ってのける。
「出来ない訳ではないだろう」
「いやいやいや。出来ません。そもそも俺は盗賊、泥棒であって誘拐犯にはなり得ません」
「なぜ出来ないんだ? ......ああ、宝物庫の鍵ならさっきスリ取ったから、自由に使ってくれて構わない。どうせ古くてダサいアクセサリーしかないけどな」
「末恐ろしい王子様だなおい」
サラッと宝物庫の中身をdisるロイズ。将来的には自分のものになるということがわからないような歳ではないはずだが。
......それは置いておくとして。
どうやらこの王子様は、カインの目的が宝物庫の中身だと思っているらしい。
当然だ。ごく真っ当な考え方だ。
しかし。
カインの目的は宝物庫にはない。女中部屋の可憐で淑やかだけど実は日に日に高まる欲望に熟れた体をもて余したような美女とワンナイトラブすることにあるのだ。
金目的の方がよっぽど可愛いげがあるだろう。
「いや、宝物には興味ないんで。可愛い女の子紹介してくれません?」
ズバリとノーセンキューの意を伝える。ゲスなセリフを付け加えたのは、王子様が諦めてくれるかもと言う淡い期待を込めてのことだ。
この年頃の子供は、カインのようなアウトローな生き方に憧れることが多い。王太子という堅苦しい身分なら、自由さに対しての憧れも強くなるだろう。
だからこそ、カインは低俗さを全面に押し出したのだ。
アウトローなんて高尚なものではない。大抵が女と酒と金、あるいはクスリや賭博に溺れたクズ野郎だ。
王子様だって幻滅して、現実を見てくれることだろう......。
「ふむ、そういえば僕はアリアーン国の風俗店のゴールドカードを持っていたな。使ったことはないが」
「永遠にお供させていただきます」
現実が見えなくなったのはカインの方だった。
アリアーン王国は、海を越えてすぐ向こうの賑やかな国だ。地理的には隣国にあたる。
歓楽街目当てでカインも何度か行ったことがあるが、あそこの風俗のレベルはかなり高い。
看護師も女中服も本物にこだわり、娼婦の演技も役者レベルだ。
そのぶん値段はお高いが、国王が好色なこともあり、時と場合は関係なく猥雑な騒がしさに満ち溢れている。
ゴールドカードは、そんな風俗店全店に無料入店できるカードだ。
カインは即決した。王子をつれて王宮から出よう。
「......そうか。受けてくれるか」
「お望みなら山越え谷越え、行きたいところどこへでもお送りいたしますよ」
「ああ、それはやめてくれないか?」
それ? と首をかしげるカインにロイズは指摘した。
「敬語だ。僕とお前は契約関係にあたるんだからな、王子とかそういうのを気にしてほしくないのだ。僕とお前、あくまで対等。どうだ?」
「......」
ふむ、とカインは頷いた。
王族にしては、なかなかに。
いや、これは、なるほど。
ふーん?
ブツブツと何事か呟いてから、カインは王子にーーロイズに手を差し出した。
一瞬驚いた顔をして、それからすぐに手を握り返される。子供の手にしては大きく、一見細く白く思えた指は思ったよりも固い。
剣士の手だな、と思いながら、カインはしっかりとその手を握り返した。
「よろしく頼む」
「こちらこそ」
どちらがどちらか、それはもう関係ない。
思っていることも感じていることも、このときばかりは全く一緒だったのだから。
「......面白くなりそうだな」
ポツリと呟かれた言葉が、夜空に溶けた。