複雑・ファジー小説
- Re: 【ぷりーず】アウトロー!【オリキャラ】 ( No.42 )
- 日時: 2015/04/12 23:02
- 名前: 羊青 (ID: F2lwV46U)
第一章七話
「というわけで脱走しようと思う! 番号!」
「……」
「ばんごー!!!」
「……あ、俺か……いーち」
「2! よし、全員いるな!? 減ってないな!? 死んでないな!?」
「いや二人しかいねーよ! どっちかいなかったら流石にわかるよ! お前角曲がるたびに人数確認すんのやめろ!?」
カインとロイズ、馬鹿でかくてクソ太い柱の影で。
幸いなことに見張りもほとんどおらず、大丈夫かこの城と逆に心配しながらもふたりはなんとかここまで来れた。
が、張り切ってるのかなんなのか、ロイズがちょっとウザイ。
「お前ね、いいからちょっと静かにしろ? いざとなったらお前置いて逃げるからな」
「多少足手まといになろうと、意地でもついてくぞ」
えへん、と薄い胸を張る少年。ここまでの身体能力を見る限り、そうそう足を引っ張ることもないだろう。カイン的にはここで脅して緊張感を持たせようと思っていたのだが、どうやらロイズは思った以上に強かなようだ。
「それに、僕が盾になればなかなか攻撃できないだろうからな! カインにとっても便利な話だろう?」
「あーうん、まーな……別に人質を取るわけじゃねーから、そこらへんはわかっとけよ?」
「……違うのか」
心底不思議そうに、ロイズは首をかしげる。
「それくらいするのが当然じゃないのか? チェイカーはそんな感じでお姫様を連れ出してたぞ」
チェイカーって誰だよ、とツッコミかけてふと思い出す。本屋でそんな名前の本を見かけた気がする。
「うーん、まあ、俺はチェイカーじゃないからな……少なくとも女子供を前面に押し出すような真似はしねーよ」
「……ふむ、なるほど……中々感心できる心構えだな」
「いやぁ、俺より弱い者を盾にするのってカッコ悪くね? 小物っぽくない?」
「ところでさっきからお前の足音がしないのだがなんでだ?」
「ガンスルーですかそうですか。……あー、それはな、なんつーの、特殊な歩行方法で……」
「……その特殊な歩行方法とやらは、駆け足の音も出せるのか?」
「え、なんで……」
カインも気付いた。
後ろから、どどどどどという音が聞こえてくることに。
……音の深みからして、恐らく鎧を着た人間が数人・・・いや、10人ほどこちらに向かってきている。
あっやべ。
そう思わず漏らすと、ロイズが覚悟したような目でカインを見上げた。
仕方ない。緊急事態だから、王子様には多少の乗り心地の悪さは勘弁してもらおう。
「約束できるか」
「何をだ」
「俺が「行くぞ!」と言ったら、俺が許可するまで口を開くな。歯は軽く噛み締めとけ。舌は縮こまらせろ。全力で俺にしがみつけ。首でも服でもいい、ヤバかったら髪を掴め。いいな?」
「神の名にかけて約束しよう」
「よっし、いい子だ」
「子供扱いするな!」
噛み付くような声を片手で制して、カインはそっと足音を伺った。
だんだん近づいて来る。カインは周りを見渡した。カインの身長より少し高い位置に窓がある。外を覗けば、月がないぶん光り輝く満天の星空が広がっていた。
「……ひとつ聞いておきたいんだけども、ここ何階?」
「確か4階だったかな」
「んー、まあ、ギリギリかな」
よいしょ、とカインは窓の燦によじ登った。ロイズの手を引張り、すっぽりと抱え込む。
「おい、いたぞ……」
「とらえろ……」
足音はすでにかなり近くまで迫っている。その先頭を走るのは、白い鎧の騎士団長だ。
他の有象無象どもはどうでもいいとして、彼がいるのはマズイ。
「よっし、腹くくれよ」
「おい出てこい腐れ【ピーーー】野郎! 捕まえたら【ピーーー】引っこ抜くからな!」
「くそこえーなおい」
「スルージか。あんなに口が悪いとはな。結構意外だ」
のほほんと配下に評価を下すロイズの姿を目にとめて、スルージの顔が一瞬硬直する。
カインはその隙を見逃さなかった。
「怖かったら目をつむってろ。行くぞ!」
ロイズには星空が見えた。
窓枠が見えた。
その向こうに焦るスルージの顔が見えた。
カインの髪が風になびくのが、不思議ととてもかっこよく思えた。
スローモーションなのは一瞬だけで、あとはもう落ちる、落ちる、落ちる。
重力に体の芯を引っ張られるようにして落ちる。
カインはロイズをしっかり抱え込み、ロイズはカインにしっかりしがみつき、ほとんど体勢を崩さないままふたりは落下した。
「ったぁっ」
気の抜けた声と一緒に、カインがクッションになったおかげで少し和らいだ衝撃が加わる。
ごろごろと中庭を転がって、カインはロイズを抱えたまま起き上がった。
まるで平然としたままロイズを地面に下ろし服をはたくカインにロイズは言った。
「不思議と怖くなかった」
「あっ、そうなのか?」
「……結構たのしいな、これ」
ふ、と微笑むロイズ。
足は少し震えているが、それは怖さからくるものではなかった。