複雑・ファジー小説

Re: Dead Days【キャラ募集中】 ( No.27 )
日時: 2015/05/04 14:31
名前: わふもふ (ID: nWEjYf1F)

 家に帰って風呂に入ると、俺はベッドに鞄を放り投げてさっさと私服に着替えた。
 制服というのはどうも着心地が悪い。今は夏服なのでマシな方だが、冬になってブレザーを羽織ようになると、どこかしら身体の自由が効かないような気がしてならないのだ。
 あえて言うなら——新人社員。彼らが着ている背広だとか、最初のうちは着慣れないから着心地も悪いだろう。
 しかし俺の場合、1年経った今でも慣れていない。慣れていないというか、素直に嫌いだ。
 そんな俺が、普段家では何を着ているのかというと——ジャージである。
 出かけるときは流石に着替えるが、部屋着だと割り切って俺はいつもジャージを着ている。
 体温調節も楽だし、何より動きやすいから。

「——あ、お帰りお兄ちゃん。もうお風呂入ったの?」
「あぁ。ただいま」

 リビングでは妹の"亜由美"が、なにやら分厚い本を片手にココアを飲んでいた。

「よくそんなの読めるよな、お前」
「お兄ちゃん、これくらい普通だから……」

 苦笑する亜由美が読んでいるのは、"井戸端会議"という題名の推理小説。
 そこいらのラノベと違い、有名な作家さんが書いた超本格的な小説なので、内容は非常に難しいものとなっている。
 中にはコメディ要素も入っているらしいが、とにかく推理小説という特性上、こんなのは馬鹿が読むものではないのだ。
 即ち、言える事は只1つ。俺より亜由美のほうが、天地の差ほど頭が良い——ということだ。

「お兄ちゃんも読んでみたら? 何か貸してあげるよ?」
「いや、いい」

 亜由美が持っている本には、既に全て目を通してある。
 本を読めば国語力が上がると聞いて、俺も実験しようと思ったからだ。
 しかし当然、その中に俺が読めそうなものなど一切無く。止むを得ず読書という名のお勉強は中止になったのである。

「前まで国語力上げるんだーって言っていたのに、勿体無いなぁ」
「安心しろ。俺にはラノベがある」
「お兄ちゃん、ラノベじゃ国語力は上がらないよ……」
「何ィ!? そんな馬鹿な……本を読めば国語力は上がる——確かに俺はそう教わったぞ!」
「はぁ……お兄ちゃん」

 パタンと本を閉じ、亜由美はこちらに目線を寄越した。
 ワインのような赤紫の瞳が、真っ直ぐにこちらを見据えている。

「ラノベっていうのはね、娯楽性を重視してるから誰でも気軽に読めるの。だから、それで賢くなろうなんて大間違いだよ」
「……マジですか」
「うん。まあでも、お兄ちゃんはそのまんまでもいいと思うけどね」
「何でだよ?」
「だって、頭の悪さと変態さがあってこそのお兄ちゃんだもん。そんなお兄ちゃんが勉学に励んで、変態紳士を逸して学者並みに賢くなったなんて……そんなの、天地が引っ繰り返ってもないよ」
「さっきから聞いてりゃ酷い言われ様だな……」

 しかも事実なので返す言葉が無い。
 俺はテストの点は良いほうだと思っている。だがそれは化学科だけであって、普通科目はこれっぽっちもできやしない。
 畜生。どうして俺はこう、高校生にありがちな三無主義なんだよ——
 因みに三無主義というのは、無気力、無関心、無感動の3つを総称して言う言葉の事で、当に俺が良い例に当てはまっている。

「だってそうでしょ? 実際普遍的で、顔もそんなイケメンってワケでもない極普通のお兄ちゃんが、人生を楽しく生きてる理由——自分で考えてみてよ。どうせアニメとか漫画とか、そこら辺だけが生きがいなんでしょ?」
「亜由美ちゃん、それは流石に言いすぎじゃない……?」

 苦笑を禁じえない、といった風にひょっこり横から顔を出したのは、いわゆる俺の幼馴染に当たる"速水怜奈"
 俺の両親が、仕事柄長期出張で海外に滞在することが多いため、コイツが代わりに家事をやってくれているのだ。
 何故家事の代理人がいるかというと、答えは単純明快。俺も亜由美も料理は愚か、洗濯や掃除さえマトモにできないから。
 だから俺はコイツには感謝してるし、いつか恩返ししたいと思っている。

「せめてさ、もうちょっとオブラートに包むってこと覚えなよ。ね?」
「むぅ……」
「なんでそこで顔を顰めるのさ……」
「もー、分かったよぅ。ごめんねお兄ちゃん、言い過ぎちゃった」

 亜由美にズケズケとものを言われるのは慣れている。
 しかし、その謝罪にはまるで心が篭っておらず、俺は何も言い返せないでいた。
 心が篭っていない度合いと言えば、謝りながら髪ゴムをとるくらい。
 亜由美は千秋先輩に負けず劣らず髪が長いため、いつもその薄い青紫みたいな色の髪をツインテールにしている。
 ただ、亜由美は身長が小さいため、実際の髪の長さは先輩の方が上だ。
 先輩はというと、俺より少し小さいくらいの身長である。

「お風呂入ってくるね」

 亜由美は目も合わせず、そのまま脱衣所まで姿を消した。

「……えっと、晃?」
「はい」
「わー、燃え尽きてる……」
「慣れてたつもりだけど、やっぱ肉親にボロクソに言われるのは……どうもな」
「元気出しなよ。ああ見えて亜由美ちゃんはね、照れ隠ししてるだけだから。俗にいうツンデレだよ」
「ツンデレ……ね」

 分かっている。そんなの、俺が一番よく知っているつもりだ。

「……はは。はは、あははは。俺もう寝るわ。じゃあな」
「お、お大事に……」