複雑・ファジー小説

Re: Dead Days ( No.3 )
日時: 2015/04/26 16:15
名前: わふもふ (ID: nWEjYf1F)

 やってきたのは生徒会室だった。
 ただ、場所は"旧校舎"と呼ばれる廃校のような場所である。旧校舎はかつて生徒の多さから使われていたが、今は人数が減ってきたことで物置と化しているため、人が立ち入ることは滅多にないのである。
 旧校舎は、校門から見て南側——本校舎の裏側に建っている。
 何ともいえない古さ加減が、何か化けて出てきそうな雰囲気を醸し出しているのだが——

「ちょっと、私にピッタリな場所だなんて思わないで」

 ——察された。
 というか先輩は俺より先行している。顔も見てないのに、どうして俺の考えていることが分かるのだろうか。
 これはもう、表情を読むというレベルじゃない気がする。



 生徒会室は、普通の教室と何ら変わり無い。
 ただ教室の半分がガラクタと、昔の生徒会の資料で埋め尽くされているだけで。
 先輩は数個置いてある椅子——ではなく机に腰掛け、優雅に脚を組んで髪を払った。
 露になった太腿がやけに色っぽい。

「それで、優希さんの事だけど……」

 しかし先輩は、そんな俺の目線などさして気にせず、さっさと本題を切り出していた。
 とりあえず空気が悪いので、俺は窓を開ける。
 入ってくる新鮮な空気が風となって、先輩の長い黒髪を揺らした。

「貴方、思わないかしら? 何故あの子の声を聞いてるだけで、こちらが眠くなってくるのかって」
「あぁ……確かに思うけど、それがどうかしたのか?」
「なら、貴方の見解を教えてくれないかしら? 何故かを、ね——」
「分かった」

 とりあえず、俺が思っていることを先輩に話してみた。
 あいつのおっとりとした雰囲気や声が、周囲の人間をリラックスさせて眠気を襲うんじゃないか、と。
 しかし先輩が言うには、どうやら1割程度しか正解ではないらしい。

「確かにあの子の声や雰囲気は、周囲の空気を和ませるわ。けど、根本的な理由は——そうではないの」
「どういうことだ?」
「貴方、今年の6月15日に何が起きたか——覚えているかしら?」

 ——今年の6月15日と言えば、思いつくことは1つだ。

「レッドナイト現象、だろ?」
「よく覚えてるわね。豚にしては上出来よ」
「ちょい待て、俺は豚じゃないぞ。立派な人間様だぞ! それにあんなキチガイな出来事、忘れろってほうが無理だ」
「そう。そのレッドナイト現象だけどね——」

 思いっきりスルーされる俺。
 人の話を聞けと怒鳴りたくなったが、ここは何とか我慢した。

 レッドナイト現象というのは、簡単に言えば空が赤く染まるという謎現象の事である。
 夜空が突然じわじわと赤みを帯びて、普段は星を携え綺麗なはずである漆黒の夜空が、まるで血液の如く赤くなった。
 その現象が起きた日こそが、6月の15日。
 あれから夜空は相変わらず真っ赤で、中には眠れない夜を過ごす人も現れ始めているらしい。

「あの日——空が赤く染まって以来、一部の人間に摩訶不思議な力が現れるようになったのよ」
「はぁ?」

 摩訶不思議な力とか、中二病かて。

「事実よ」
「マジで言ってんの? 遂に頭壊れたのかよ?」
「だったら、証拠を十二分に見せてあげるわ」
「どうやって?」
「例えば私の場合、相手の心を読む力が備わった——今から貴方が考えてること、全て当てて見せるわ」

 そう言って先輩は目を閉じ、俺に背を向ける。

「じゃあ、貴方が今食べたいものを考えてみて」
「食い物か」

 言われるがままに、俺は食べたいものを思い浮かべようとする。
 だが今は、特に腹が減っているわけでもないので、特に食べたいものは思い浮かばなかった。
 ——すると。

「食べたいもの、特にないのね」

 ——見事というか、当ててきた。
 まさかこの人は本当に、こんな超能力じみたようなことをやってのけるのか?
 少し試してみよう。

「先輩」
「何よ」
「俺は今から考え事をする。考えてること当ててみろよ」
「上等よ……始めなさい」

 ——少しの沈黙が流れてから、俺は自分の部屋を思い浮かべる。
 部屋の端っこを陣取る机にはパソコンが置いてあって、今まで俺が保存してきたアニメや動画の数々が保管されている。
 そういえば、あとどれくらいの空き容量があっただろうか。そろそろ新しいメモステを買うべきかも知れない。

「——自室のパソコンにアニメや動画を保存してあるのね。それで、容量不足になる前に対策を練る、と」
「……マジで読めるのかよ。俺の考えてる事……」
「えぇ」

 再び先輩は俺のほうを向いた。
 心なしか、白皙の頬が淡い桜色に染まっている。
 ——まさか、俺の秘蔵のフォルダについて知ってしまったか!?
 って、流石に考えすぎか。できればそうではないと願うばかりだが——

「知ってしまったわ」

 現実は違った。
 俺は思わずその場で項垂れる。

「くそう、俺の18禁動画……」
「全く、変な性癖ね。女の子同士でヤるなんて」
「言葉にしないで、お願いだから! 俺が恥ずかしすぎて死ぬ!」

 全く、こんな盛大な辱めを受けたの初めてだぞ……

「いいこと、晃君? 世の中に百合っ子なんてそうは居ないものよ。もう少し現実を見ることを覚えなさい」
「嫌だ、俺は二次元に——ん?」

 俺は違和感を覚えた。
 先輩と俺は初対面で、お互いに名前さえ知らない間柄である。
 しかし先輩は、俺の名前を知っていた。これはどういうことだろうか——
 そんな疑いの目で先輩を見ると、彼女は薄ら笑みを浮かべた。
 全く、雪女みたいな笑い方をする人だな——