複雑・ファジー小説

Re: Dead Days【キャラ募集一時停止】 ( No.37 )
日時: 2015/05/09 22:30
名前: わふもふ (ID: nWEjYf1F)

 翌日の放課後。
 案の定身体中が痛くなっていたが、俺はあの夢について相談したいがために千秋先輩の元を訪れていた。
 場所は勿論、旧校舎の生徒会室。半分が物置となったここで、彼女は放課後にいつも余暇を持て余しているはずだ。

「ん?」

 しかし、先輩はいなかった。
 ただ、窓だけ開け放たれているのを見ると、さっきまで誰かがここにいたことは間違いないようだ。
 ——となると、屋上か。



    ◇  ◇  ◇



「よくここが分かったわね」

 やはり先輩は、新校舎の屋上にいた。
 柵に背中を預け、物憂いとした表情で遠くを眺めている。
 視線を追えば——空。空が灰色に染まっている。分厚い雨雲が広がっていて、今にも雨が降りそうだ。

「今日はどうしたの?」
「変な夢を見たんだ。だけど、夢の内容が全然思い出せなくて。先輩何か知らないか?」
「……」

 ——瞬間、先輩の表情が強張った。

「それ、私からも言おうと思っていたわ」

 どうやら心当たりがあるらしい。

「恐らく、晃君の稲生が発動したのよ」
「……ふぁ? 俺の異能が発動した?」
「えぇ」

 先輩はポケットからスマホを取り出した。
 相当古い型なのか、機種が分からない。

「今日は6月の30日——でもね、晃君。本来なら今日は、7月2日のはずなのよ」
「ど、どういうことだ?」
「まずは落ち着きなさい。あれから私も、更に色々調べたわ。貴方の異能が気になって、ね」

 ポケットにスマホを仕舞う先輩。
 手持ち無沙汰となった両手は、腕を組むことで自由を失う。

「まず貴方の異能は、あったはずの出来事を別の出来事で上書きしてなかったことにする——そんな内容だった。でも、どうやらそれは間違いだったみたいよ。晃君が操る異能は、もっと大規模なもの——」

 ——ここで、先輩は今日初めて俺と目を合わせた。ただ、身体は柵に預けたままだ。
 曇り空の影響か、真紅の瞳は幾らか輝きを失っている。

「貴方の異能はね、どうやら時間を巻き戻すみたいよ」
「……え?」
「上書きではない。あったはずの未来を抹消して、時間を過去に戻すの」

 言ってることが謎すぎて、一瞬どころか数秒ほど、先輩の言葉が理解できなかった。

「時間を巻き戻す? 俺が?」
「えぇ」

 少し遠くにいる先輩は、柵から背中をはがして俺のほうに歩み寄ってきた。
 ——と思えば俺を通り過ぎて、先輩は校舎内へ戻ろうと扉に手を掛ける。

「今日はここまで。時間を巻き戻す異能を持ったこと、明日までに自覚してきなさい。私からの宿題ね」

 そう言って先輩は、振り向くことなく屋上を後にした。

「——」

 何だか最近、取り残されることが多いような気がする。

「時間を巻き戻す、か」

 俺も先輩と同様、屋上のフェンスに背中を預け、どんよりとした鉛色の空を見上げた。
 いつの間にか風も出ている。しかも結構な強風で、この調子だと雨が降るかもしれない。
 ただ、雲は鉛色であって赤色ではないため、赤い雨が降る心配はなさそうだが——

「——19時……帰るか」

 もう部活動の掛け声も聞こえてこない。
 時間も時間だし、そろそろ帰ろうかとフェンスから背中を引っぺがしたら——

「——ふぇ?」
「……あ?」

 突然、女の子の声が聞こえた。

「誰だぁ?」

 しかし四方八方、どこを見渡しても人影は無い。
 気のせいか。そう思って再び空を見上げたら——

「……」
「……」

 ——いた。
 前後左右、どこを見渡しても見つからないわけだ。
 何故なら声の持ち主は、上にいたのだから。

「ななな、何でこんな時間に、こんなところに人がっ!? あわわわ、どうしましょう……見つかっちゃいましたぁ……!」

 1人でエキサイトしている空中の少女を、俺は見たことがある。
 千秋先輩とはまた違った、滑らかな艶を持った黒髪ロング。
 何より泣き黒子と、穏やかで透き通ったような瞳——うん、心当たりがあるぞ。俺は確信した。
 とりあえず、最近見かけたのはテレビだったな。

「——恋本もなみ、か?」

 恋本もなみ——彼女は"もなみん"の愛称で知られる、現役のスクールアイドルである。
 "今をときめく"をキャッチフレーズに活躍する三人組アイドルユニット"MEMORIAL"のメンバーで、人気はかなり高い。
 今のところ、某48人組のアイドルたちと同じくらいの知名度だろうか。

「わ、私のことご存知なのですか?」
「そりゃ、見た目まんまMEMORIALのもなみんだからな。知ってて当たり前っつーか……」
「えっと……その、こ、光栄です!」

 勢いよく頭を下げる恋本——基、もなみん。
 こんなにも腰の低いアイドル、何というか初めて見た様な気がする。

「安心しろ。アンタが異能者なのは黙っててやる」
「ほ、ホントですか……?」
「俺も異能者だからな。そこら辺は弁えてるつもりだ」
「そ、そうですか……あ、ありがとうございます……」

 けっこうオドオドしてるな、もなみん殿。
 こんなんでよくアイドルが務まってるな——まあ、いざステージに立つと違うんだろうけど。
 実際テレビで見ると、ステージ上で踊るもなみんの姿は"可愛い"の一言に尽きる。
 然程アイドルには興味の無い俺だが、そこだけは痛烈に感じることができる。

「ま、健気に頑張れよ。今日のところはみなかったことにしといてやるから」
「うぇえ? あぁ、えっと、あの……さよならです!」

 人気アイドルは空を飛ぶ。そんなことは記憶の彼方へと追いやり、俺は家に帰った。