複雑・ファジー小説

Re: 幽霊ズ me up *【キャラ募集始めました】 ( No.10 )
日時: 2015/05/11 21:47
名前: Iesset (ID: EEo9oavq)

六話「記憶なし、原点にかえる」


 原点に戻った。

 あの時、俺はこうやって寝転んでいたんだっけか。

 ___あの時と同じように、風が心地いい。

 廃病院で俺爆発事件から約一ヶ月、未だに何も思い出せていない。わかっているのは、少なくとも生前の俺に爆発の記憶があるということだけだ。

 ちなみに、忍霊を実験台に例の爆発能力を使ってみたところ、いろいろなことがわかった。
 まずひとつに、爆発の発生源が俺自身だということ。
 要は起爆ではなく自爆、自分の身体の中にある爆弾を作動させるような感覚だ。それに伴い俺もダメージを受けるため、死んでも"痛み"の概念がある俺には相性の悪い能力といえるだろう。本気を出せば街のひとつやふたつ吹っ飛ぶかもしれないが、まず最初に俺が激痛と共に吹っ飛ぶので無理だ。この能力の実用には常にリスクが伴うことになる。
 そしてもうひとつ、生きているものにも死んでいるものにも影響があること。これは切り替えが可能らしく、幽霊だけにダメージを与えたり、生きた物だけにダメージを与えることができた。

 使いようによっては最強の能力かもしれないが、考えなしに使えば大きな犠牲が出るので、やはり俺には向いてない。そもそも使う場面はそうそうないだろう。

「おかしゃん、今日のお昼ごはん、なぁに?」
あの時と同じように公園の野原で寝転んでいると、小さな子どもの声が聞こえた。
ブランコに乗っている、笑顔の絶えないまだまだ小さな女の子だ。
「今日はみぃちゃんの大好きなハンバーグよ。昨日の運動会、頑張って一位取ったもんね」
「やったー!おかしゃんありがとぉー」
 __俺も昔あんなふうに、平凡な毎日を幸せに過ごせていたのだろうか。
 爆発に遭遇した記憶があるのだ。俺も生前は普通の家庭で育ち、ふつうに生きてきた、とは一概には言えないだろう。

 自分が何処の誰で、何者なのか。記憶すら無いのだからこの世への未練なんて無いはずなのに、何故俺は成仏できずにいるのか。
 知ったところでどうにもならないし、知るすべはもう無いのかもしれない。

 それでも、自分が確実にこの世で生きていたという保証が欲しかった。

 「あーあ」
 よっこらせと体を起こし、立ち上がった。何もやることはないし、帰ろう。
 帰るといっても帰る場所がないので、結局は酒場に行き着いてしまうのだが。
 
 何を考えるわけでもなく、ただゆらゆらと酒場へ向かった。
 いつもの見慣れた道、見慣れた風景。
 空き地の前を通り過ぎ。
 駅の前を通り過ぎ。
 住宅街の道をくぐり抜け。

 繁華街に差し掛かり、電車の走っている踏切をいつも通り通り抜けようとした時。
 ふと横を見た。
 女子中学生だろうか。踏切を渡ろうとしている。
 別に気にも留めず、俺はそのまま進もうとし、気付いた。
 死んでいる俺は普段から信号無視、踏切無視をしていたので感覚が鈍っていた。

 今、電車が走っている。今、彼女は踏切を渡ろうとしている。

 「危ない!」
 一歩一歩足を進める彼女を、俺は既のところで押し飛ばした。
 助かり、ひと安心したが、彼女は止まらなかった。
 「やめて!」
 「………え!?」
 俺のことが見えるらしい。
 彼女は尚も電車に突っ込もうともがく。
 「おい!待て待て待て待て!」
 無駄だとわかっているだろうに、彼女は俺にブンブンと腕を振るいもがく。
 ついには抑え切れなくなり、俺は仕方なく憑依した。

 ガタン、ゴトン、と電車は通り過ぎてゆく。