複雑・ファジー小説
- Re: 幽霊ズ me up *【キャラ募集予定?】 ( No.2 )
- 日時: 2015/05/10 22:43
- 名前: Iesset (ID: EEo9oavq)
一話「記憶なしと覆面野郎」
「俺、誰だっけ」
気づいた時、俺は公園のだだっ広い野原の真ん中に背をつけて、青空を見上げるような格好になっていた。俺にわかるのはそれだけで、ここに来た経緯は疎か自分のことすら覚えていない。最悪な状況であるはずなのに妙に吹かれる風が心地よく、俺はぐーっと両手を伸ばし体を起こした。
「ふぁあ!?」
あり得ない光景に驚き、起こしてまたすぐ倒れた。目線の先に無くてはならない物が無いのだ。もう一度体を起こす。
___やはり、無い。足が無い。それどころか体も半透明に透けている。俺が異様な姿をしているというのに、俺の前を通り過ぎる人々は見向きもせずに歩いて行く。見えていないのか?
「僕には見えるよ」
「ぅわっ!」
背後からの声に度肝を抜かれ後ろを振り向くと、不審者は私ですと云わんばかりの全身黒ずくめの覆面男が立っていた。
いや、浮いていた。俺と同じように半透明で足が無い。
「僕も君と同じ」
「は? な、何がだよ」
「君まだ気付いてないの? 僕たちもう゛死んでる゛んだよ」
- Re: 幽霊ズ me up *【キャラ募集予定?】 ( No.3 )
- 日時: 2015/05/10 08:08
- 名前: Iesset (ID: EEo9oavq)
「へー、何にも覚えてないんだ。たまに自分が死んだことに気付かずに生活する人がいるんだけどさあ、生前のことを何にも覚えていないなんて、君本当におもしろいね」
覆面野郎は上半身だけの体をふわふわと揺らしながら呑気に笑った。俺もいく宛がないので同じようにふわふわとついていく。
自分がすでに死んでいると言われても、何も覚えていないせいか実感が沸かないというか、死に対する悲しみが物凄く薄い。覆面野郎が嘘をついている可能性も考えたが、さっきからすれちがう人々が俺の体を通り抜けているのだ、死んでいることは確かだろう。
「信号無視が出来るなんて、幽霊もいいとこあるでしょ?」
赤信号の横断歩道を渡り、自分の体を通り抜けていく車を見ながら覆面野郎は言った。
「で、俺に会わせたい人って誰なんだよ。何をさせるつもりだ?」
「僕の知り合いさ。ただ、君というおもしろい霊の存在を見せてあげたくてね」
「黒ずくめ覆面野郎の知り合いなんか信用なるかよ。だいたい、俺のことおもしろいおもしろいって、ただの死んだことに気付かなかった記憶喪失幽霊だろうが」
「いいや、確かにそれもおもしろいが、君のおもしろいところはもっと別にある。死んでいるのに"生気"が感じられるんだ。生きているんだよ」
いきなり君は死んでいると言った男が今度は生きていると言い始め、俺の頭は整理がつかなくなった。
「あの野原で仰向けになって青空を見上げたとき、君はどう感じた?」
あの時どう感じただろうか。記憶がなくて絶望的だったのに何故か妙に......
「風が心地よかった」
「やっぱり......そうか。五感のひとつである"触覚"、つまり物に触れたり痛みを感じる感覚というのは、生きているときにしか表れない。人間に限らずだ。それが君は風を感じることが出来る。普通の幽霊には出来ないことだ。君は半分生きていて半分死んでいる、それがおもしろいんだ」
「じゃあ何で俺だけ?」
「わからないからおもしろいんだろう? あ、それと僕のことを覆面野郎だとか言ったが僕にも名前があるんだ。忍霊(にんりょう)と呼んでくれ」
「忍霊……もしかしてその黒ずくめ衣装、忍者服のつもりか?」
「つもりではなく本物だ。僕は数百年前に死んだ忍びの者。幽霊界の大先輩だぞ」
「はあー、もうわけわかんねえわ。全然忍者っぽくねえし」
「もう現代慣れして古臭い口調や考え方は辞めたからな」