複雑・ファジー小説
- Re: 幽霊ズ me up *【キャラ募集予定?】 ( No.4 )
- 日時: 2015/05/10 22:49
- 名前: Iesset (ID: EEo9oavq)
二話「私の妻は未亡人」
「さあ、着いた。多分あいつはここに居る」
忍霊が急に止まるのでぶつかりそうになり、案の定ヌルッと通り抜けた。
「あぶねえな、急に止まったらぶつかるだろ」
「貫通したじゃんか」
「いや、そうだけどよお…」
にぎやかな繁華街の中に立ち並ぶ店の中でひとつだけ明らかに雰囲気の違う店の前に俺たちは立っていた。ボロボロの煉瓦造りの壁にはびっしりとツタが絡み付いていて、看板には【酒場 私の妻は未亡人】という意味不明な店の名前が書かれている。
「なんかここにいるとすげー体がそわそわするんだけど、大丈夫だよな?」
「君も霊気がわかるようになったんだね。ここは幽霊の溜まり場だけど、悪い霊は居ないから大丈夫だよ。外見は人を寄せ付けないためだ。さあ、入ろう」
そう言うと忍霊は古びたドアを通り抜けて店の中へ入った。続いて俺も入ろうとして、ふとあることが気になり止まった。
俺には触覚があり、物に触れたり感じたりすることが出来る。それなのに人や車、さっきの忍霊とぶつかりそうになったのもそうだが、物体が体を通り抜けるというのは少し変ではないか?
意識の違いで変わるのかもしれないと考え、ドアを壊す勢いで突撃すると案の定ガツンッと体がぶち当たった。どうやら自分の意志の違いでそこのところはコントロールできるようだ。
酒場の中は外見とは対照的で毎日手入れをされているのが分かるくらい綺麗で、俺と忍霊の他に二人と一匹が先客にいた。ひとりはカウンターの奥にいるマスターと思われる髭面の男、ひとりは客と思われる化粧の濃い女の若者、いっぴきはマスターのペットと思われる犬だ。忍霊からは全員霊だと聞いていたが半透明なのは犬だけで、後の二人は普通の生きた人間である。しかし霊感が強いのか俺のことが見えるらしく、マスターはぶっきらぼうに「いらっしゃい」と言った。
「紹介するよ、こいつが僕の知り合いの富裕霊」
カウンターの席に座っていた女がいやらしい笑みを浮かべながらこちらを向いた。顔は赤らんでいてひどく酒臭く、くっきりと実態のある体は生きている人間のようにしか見えない。
「マスター、水くれ。キモチワルイ」
「あいよ」
女はマスターから水を受け取るとグビグビと喉に流し込んだ。すると今度は女の口の中から半透明の男の頭がヒョイと飛び出し、続いて下半身の無い体が出てきた。
「ふう…やっぱり酒に弱い女に憑依するのはよくないな」
「憑依…か」
女の中から出てきた男......こいつが富裕霊で、肉体のある女に取り憑いて酒を楽しんでいたというわけだろう。
取り憑かれていた女は白目をむいて抜け殻のように倒れている。
「大丈夫だよ、憑依されてた負担で少し意識が無いだけだ。すぐ戻るよ」
俺が倒れている女を見て忍霊に目配せをしたが、命の心配はないようだ。
「早いとこその女はうちの店から出しておけ、目覚めたら面倒だ」
「へいへい、わかってるよマスター。その女は後で外に運んどく…はいこれ酒代」
富裕霊がそう言うと、目の前にパッと金が現れカウンターのテーブルに落ちた。
「今のどうやったんだ?」
「ん、あ金か? これはオレにしかできねーよ。特異霊の能力だ」
「特異霊?」
「お前ほんとうに何も知らねーんだな。特異霊ってのは生前で一番印象に残っていた記憶が能力として現れた数少ない霊のことだ。オレは富裕霊の名前の通り、生前は超大金持ちの御曹司。金の記憶が一番強かった。だから金銭を造形できるってことよ。ちなみに忍霊も特異霊のはずだぞ」
「うん、僕も忍者として戦闘の記憶が強かったから。能力として忍術を使えるよ」
なるほど。そんな特殊なのもいるのか。
まあ、そもそも記憶の無い俺は関係の無い話だろう。
「おい、そろそろ女が起きるぞ。早く運べ」
「おっと、悪いなマスター、今運ぶよ。お前らも付き合ってくれ、生気を帯びた幽霊さんとももっと話したいしな」