複雑・ファジー小説

Re: 幽霊ズ me up *【キャラ募集予定?】 ( No.6 )
日時: 2015/05/12 19:54
名前: Iesset (ID: EEo9oavq)

四話「爆発の記憶」


 「隠れるぞ」
 「何処がいい?」
 「あそこに入るぞ」
 富裕霊は扉が固く閉ざされている手術室に真っ先に入っていった。
 「だから先行くなって…………え?」
 富裕霊が入った瞬間、突然、手術室の上にある【手術中】の赤いランプがパッとついた。
 「ハ、ハハハハ。冗談やめろよお前、早く出てこいって」
 ……………。
 「俺もう帰るぞ?」
 ……………。
 「おい、いるんだろ?」

 「イルヨ」

 ___後ろに、いた。富裕霊ではない何かが。

 白目をむいた目は片方飛び出ていて、口には歯がなく、半透明の全身には毛が無い。ぱっくり開いた腹の中からはグチャグチャになった臓器がどろどろと垂れ流れている。

 それ以上、おぞましい何かに目を合わせることは出来なかった。

 「ぎゃああああああああああ!!!!!」
 富裕霊は何処だ、何処だ何処だ何処だ?
 手術室だ。
 頭がパニックになり、俺は手術室に突っ込んだ。

 「あ、あああ………」
 「お前、どうしたんだ?」
 何も知らない富裕霊は平気な顔をしている。
 「か、帰ろう富裕霊。奴にバレた。やっぱり勝手に入るべきじゃ無かったんだ。さっさと壁を通り抜けて………」
 「それだがな……オレが入った途端この部屋は霊気で壁が張られちまった。壁を通り抜けるのは無理だ。ハメられたな……それに、もう来てる」
 すでに扉の前に奴はいた。
 「うぎゃああああ!」
 奴は俺と富裕霊を交互に見ると、カクン、と首を傾け、俺を見つめた。

 俺は再び悲鳴をあげそうになり、ギリギリで抑えこんだ。

 落ち着け、俺。
 俺は幽霊、二度とは死にはしない。
 きっと奴も話せばわかる。

 「や、やあ。勝手におじゃまして本当にごめんね、その、なんてゆーか、きみのことを知りたくてさ、ははは………」

 「イキテル」

 「え、え?」

 「オマエ、シンデナイ」
 奴は全く俺から目線を外さずそう言った。奴の臓器がどろっと垂れ落ちる。
 怖い。
 
 「生霊、早くそいつから離れろ。お前が生気を発していることに異常に警戒してる!」

 「イキテルヤツ、キライ、コロス」
 「うがぁっ」
 何の前触れもなく、激痛と共に俺は後方に吹っ飛んだ。
 「ちっ、生霊、離れてろ! オレがこいつを殺す」
 瞬時に富裕霊が俺の前に立ちはだかる。
 「殺すも何ももう死んでるんだぞ?」
 「幽霊なんて肉体のないただの魂の塊、特異霊の能力を使うか霊気を放つかして消し飛ばすくらい簡単だ」
 富裕霊は金銭を作り出し、奴にぶち当てて腕を吹っ飛ばした。
 向こうの戦いを見守りながら、俺はここから逃げる方法を探す。富裕霊が言った通り、壁はもちろんの事、天井からも床からも抜けられない。やはり奴を倒すしかないのだろうか。
 「ちくしょう、何だこいつ」
 そうこうしているうちに奴が放つ霊気をまともに喰らい、富裕霊の体はごっそりと削り取られていた。
 ああ、そうか。普通に出入口から出ればいいんじゃないか。奴が扉の近くにいるせいで考えようともしなかったが、富裕霊に気を取られている今ならいける。
 俺は奴に見えないよう背後に周り、扉に突っ込んだ。
 ___無理だった。
 予想は外れ、俺は思い切り扉に大きな音をたてて衝突した。
 「コロス」
 奴がこちらに気付いた。
 ゆらゆらと俺に迫って来る。
 逃げなくてはいけないのに、体が動かない。
 「逃げろ生霊!」
 その時、俺の脳裏に何かがよぎった。目の前が真っ赤に燃えるような光景。

 ___生前、爆発、分裂、最期の記憶。

 そんな言葉が数少ないパズルのピースのように頭の中に散らばり……。

 激しい痛みが襲った。目の前が赤く、眩しくなり、奴の体はバラバラになって吹っ飛んだ。

 何が起こったのかわからない。

 が、隣で富裕霊が安堵した表情で笑っているのが見えた。

 「……終わったのか?」
 「ああ、奴は魂もろとも消えた」
 「大丈夫なのか、富裕霊」
 奴の攻撃で富裕霊の体はあちこち引きちぎれていた。
 「オレはお前みたいに触覚はねーから、痛みは感じねー。魂は勝手に再生するから大丈夫だ……ってか、お前も特異霊だったとはな」
 「え、俺が?」
 「俺が? って、自分も巻き込んで爆発してたろ」
 爆発………。
 もしかすると、あの時脳裏をよぎったのは爆発に関する記憶だったのだろうか。
 ___生前、爆発、分裂、最期の記憶。
 あの時そんな言葉が頭の中に現れた。
 生前の、最期の記憶?
 もしかしたら、俺は爆発に巻き込まれて死んだ霊なのかもしれない。
 何故か奴に殺されかけたとき、俺は爆発についての記憶を思い出し。
 印象の強かったその記憶が爆発能力として具現化し………。

 頭の中でバラバラだったパズルのピースが埋まっていく。

 「帰ろうぜ、自爆霊。もう気持ち悪くてこんなところいてらんねーぜ」
 「あれ、生霊じゃなくなったの?」
 「いや、自爆霊って呼んだほうがしっくりくるからよ。ハハハッ」
 「テキトーだなあ」

 とりあえず、奴を倒すことができたのだ。
 考えるのは、帰ってからにしよう。