複雑・ファジー小説

Re: (合作)闇に嘯く 1−10更新 ( No.13 )
日時: 2015/06/27 21:32
名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: ATRgYs44)

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 その日、昼前に起床すると、潮たちはすぐに動き出した。暗くならない内に、村の周りにある森の中を探索したかったのである。
 しかし、いくら森に探りを入れてみても、思うような成果は得られなかった。森に限らず、妖怪が棲みついているとなれば、その場所に邪気が立ち込めていたり、他の生物が寄りつかなかったりと、何らかの異常が見られるはずなのだが、この森には邪気も感じられないし、鳥や猪なども生息しているようだ。
 念のため、退魔の呪符を貼って巡ったが、隣村の境まで続くこの森中に貼っていてはきりがないという理由で、それも断念した。製鉄所の建設予定地がこの森であることもあって、てっきりその周辺を棲家とする妖怪が元凶だと思い込んでいたのだが、肝心の森には妖怪の影も形もなかった。

 3人は、日が傾き始めた頃に、再び民宿の2階で顔を揃えた。

「あーあ、もうやめようぜ。森にゃあいないんだろ。人型だったし、村に紛れ込んでるんじゃねえ?」

 千里が、うんざりだといった様子で言った。

「いや、それはないだろう。仮に、あの妖怪が村に身を隠していたとしても、この小さな村だ。突然新顔が加わったら、真っ先に村人が気づく」
「そうね、昨日聞いた話じゃ、郡長さんはそんなこと言っていなかったし」

 潮と琴葉が、あっさりと答えた。

「誰か、元々村人だったやつを殺して、そいつに成り済まして住んでるって可能性は? 実際、俺や潮の姿もとってたわけだろ?」

 潮は、少し考え込むようにうつむいて、首を横に振った。

「……それも、ないだろう。この村では今、夜間は外出禁止になっている。そんな状況下で村人として夜に出歩いていたら、まず怪しまれるからな」

 潮は、そのまま続けた。

「首吊りが起こっているのも、森なんだ。やはり森に潜んでいると考えるのが、俺は妥当だと思う」

 琴葉は頷いた。

「……おそらく、気配を隠すのが上手い妖怪なんだわ。潮くんの口調を熟知していたし、今こうしている時も私達のことを、どこかで見ているのかも……。陰陽寮で緊急の任務だと話されたことを知らなかったってことは、私達がこの村に入ってから、警戒して見張ってるのよ」
「って言ってもなあ。鷹の目も何も感知してないし……」

 2人の会話を聞きながら、潮はじっと考え続けた。
 琴葉の言うように、敵は潮たちの動向をどこかで見ている可能性が高い。そうでなければ、潮や千里の姿をとれるはずがないし、そもそも囮捜査をしていること自体気づけないはずである。
 しかし、いくら気配を隠すのが上手かったとしても、見張られて一切の妖気や邪気を感じないというのは、明らかにおかしかった。現に、今も度々周囲の気配を探っているが、全く妖怪の気配などしない。今回の事件は妖怪の仕業ではないのか、とも思ったが、昨晩戦ったあれは、確実に妖怪だった。

(……当然、俺達が陰陽師であると分かって襲ってきたわけだから、今更逃げ帰ることはないだろうし……)

 考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだった。