複雑・ファジー小説

Re: (合作)闇に嘯く 1−11更新 ( No.14 )
日時: 2015/06/22 21:34
名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: okMbZHAS)



「あんま考えたくねえけど、やっぱ土地神の仕業なんじゃねえの?」

 ぼそっと、千里が言った。

「……可能性としては、否定できないわね。でも、この辺りに土地神信仰の話は聞かないし……」
「……いや、長年信仰されていないからこそ、妖怪化したとも考えられるな」

 潮の言葉に、千里が頷いた。

「妖怪化して間もないなら、邪気が感じにくいのとかも頷けるしな」
「それは、確かに……」

 琴葉が、納得したように腕を組む。その傍らで、潮が苦々しげに口を開いた。

「もし本当にそうだとしたら、かなり厄介だな。土地神は執着が強いし、そこらの妖怪より余程質(たち)が悪い。おまけに、幻術まで使われるとなると……」
「ああ、そういえば。幻術のことで、今思い出したのだけど……一つ、有効な手立てがあるわ」

 琴葉は、人差し指をぴんと立てて言った。

「潮くんの偽物に襲われて、首を絞められたときに、あれは……そう、右手ね。右手の手首に、包帯が巻かれていたのが見えたの」
「包帯……?」

 訝しげに言って、潮は己の右手首に視線を落とした。左手首も含め、潮は包帯など巻いていない。
 琴葉は、少し得意気に続けた。

「つまりね、敵はあくまで外見の幻しか作れないのよ。自分が負ってる傷とか、そういったものまでは隠せないの。幻術使いというよりは、化けていると表現した方が正しいのかも」
「へえ、なるほどな。それなら、次また俺達の誰かに化けて出ても、見破る手段はあるな」

 千里の返しに、琴葉は大きく頷いた。次いで、携帯を取り出すと、何か文章を打ち始める。
 一瞬、琴葉が携帯を取り出した意味が分からなかったが、妖怪がこちらの様子を伺っていることを前提とした行動だと気づいて、潮は開きかけた口を閉じた。

 やがて、琴葉が2人に見せた携帯の画面には、こう記されていた。

“今後しばらく、全員狩衣を腕捲りして着用すること”

 3人は、顔を見合わせて頷き合った。
 手首の包帯、怪我を隠せないというこの推測が正しければ、敵は、包帯の巻かれた手首を見せて腕捲りをするか、あるいは腕捲りをしない、この2択しかない。すなわち、本物と全く同じ姿をとることはできないので、偽物かどうか一目瞭然になるというわけだ。
 腕捲りなど日常的にするし、作戦だとも思われにくいだろうから、良い案だと潮は思った。

「これ以上は何もできない。とりあえず夜まで待機して、また村を見回ろう。昨晩の戦いで、相手も完全に俺達のことを敵視してる。夜になれば、襲ってくる可能性は高いだろう」

 潮は、今度は大きめの声で言った。もしもどこかに、この話を聞いている者がいるなら、其奴にも聞こえるようにと。
 18時に再び、村の十字路に集合する約束をして、潮、琴葉、千里は、ひとまずそれぞれの部屋へと戻った。