複雑・ファジー小説
- Re: (合作)闇に嘯く 1−11更新 ( No.16 )
- 日時: 2015/07/05 22:09
- 名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: ATRgYs44)
祠は、確かに森の中にあった。樹洞(じゅどう)というよりは、祠があった場所に木が生えて、その木が祠を飲み込んでしまったようだ。
木の大きさからしても、この祠はかなり古いものだということが分かる。もはや木と一体化しているその祠は、確かに、注意深く探さないと見つからなかった。
だが、その場所にたどり着いた時、初めて潮は、一緒に来ていたはずの小夜が側にいないことに気づいた。慌てて後ろを振り返ると、小夜は潮から離れたところを、よろよろと走っていた。
「す、すまない! 俺が速すぎたか……?」
大急ぎで小夜に駆け寄ると、潮は即座に謝罪した。小夜を置いていくつもりなどなかったのだが、夢中になると周りが見えなくなる自分の性分を、潮は理解している。祠の位置が大体わかった時点で、無意識にそこまで走っていってしまったに違いない。
一向に返事をしない小夜を見つめると、彼女は、ひゅーひゅーと苦しげに喘鳴(ぜんめい)していた。痰のからんだ嫌な咳をしながら、昨日の雨でぬかるんだ地面にしゃがみこむ。そこで潮は、小夜が喘息であることを思い出して、全身から血の気が引いた。
潮を追いかけて走る内に、発作が起きてしまったのだ。
自分を殴ってしまいたい心境に陥りながら、潮はとりあえず小夜の背中をさすった。喘息がどんなものかは知っているが、発作が起きたときにどうすれば良いのか、全く分からない。
小夜は、微かに震える手でスカートのポケットから吸入器を取り出すと、一度大きく息を吐いた。そして、吸入口をくわえ、薬を強く吸い込むと、そのままぐっと息を止める。
潮は、おろおろと困ったように小夜を見守っていたが、やがて、ほうっと息を吐いた小夜の呼吸が、徐々に整ってきたのを確認して、幾分か顔に血の気を取り戻した。
「だ、大丈夫か……? 本当に、申し訳ないことをした」
恐る恐る潮が声をかけると、小夜は吸入器をポケットにしまって、顔を上げた。
「大丈夫。最近、天気悪くて、低気圧で発作、起きやすいだけだから」
まだ少し苦しそうな声で言われて、潮の中の罪悪感はむくむくと膨れた。いっそ責められた方が、気持ちは楽になっただろう。他人への配慮が足りないのは、自分の欠点だと常々自覚している。