複雑・ファジー小説

Re: (合作)闇に嘯く 1−11更新 ( No.17 )
日時: 2015/06/27 09:49
名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: Oh9/3OA.)


 小夜は、ゆっくりと立ち上がると、祠の方を指差した。

「祠、あそこだよ。あったでしょ?」
「あ、ああ……」

 帰りは、彼女を背負っていくと決心して、潮は気を取り直した。念のため、小夜にはここに残るように言って、再度祠に近づく。

 社殿が木製の祠は、木に巻き込まれて、ほとんどが壊れていた。切妻屋根(きりづまやね)の部分は腐って跡形もなくなっていたし、観音開きになっている戸も、一方は今にも外れそうな状態で、宙吊りになっている。
 潮は、腰の日本刀に手を添え、時折木々の葉から落ちてくる雨粒を手で払いながら、外れかけている戸を外した。
 此度の事件の黒幕が土地神ならば、それはほぼ確実にこの祠の主だろう。場合によっては、今ここで戦闘になることも視野に入れながら、潮は慎重に行動した。

 しかし、戸が外れたとき、潮は拍子抜けして、数回瞬いた。祠の中に、神像がなかったのである。
 神像が奉られていないということは、当然ここには神などいない。おそらく、かつてこの周辺に住んでいた人々が、移住する際に守り神として神像を共に持っていった、そんなところだろう。この祠は、信仰されなくなったとか、見捨てられたとか、そういったわけではないらしい。

(原因が土地神という線は、薄いか……)

 またしても期待はずれな結果に、潮は落胆した。やはり、敵はただの妖怪なのだろうか。

「陰陽師様、どうしたの?」

 素直に待っていた小夜は、潮の落胆した様子が気になったのか、声をかけてきた。潮は、振り向いて肩をすくめて見せた。

「案外してくれて、ありがとうな。でも、残念ながら、ここには土地神はいないようだ」
「えっ!? そうなの?」

 小夜は、目を丸くして、祠の方に歩いてきた。そして、祠の中を覗き込むようにしゃがんで、はあっと大きく息を吐いた。

「なぁんだ、神様、いないのか……」

 潮の落胆ぶりにも劣らないくらい、小夜が悲しそうな声音で言った。

「土地神がいないと、何かまずいのか?」

 小夜は、不満げに唇をとがらせた。

「うん……。だって小夜、ここのところ毎日、神様にお願いに来てたんだもん」
「お願い?」

 潮が問い返すと、小夜はそうだよ、と頷いた。

「小夜ね、喘息だから、製鉄所ができたら引っ越さないといけないの。でも、みっちゃんたちと離れたくないし、私は嫌だったから、製鉄所ができないようにってお願いしてたの」

 製鉄所ができないように──。
その言葉に、何かが引っ掛かった。
 小夜は、しょんぼりとした様子で続けた。

「でも、もう製鉄所が建つのは決まっちゃったから……今は、『よた』が帰ってきますようにって、お願いしてるんだ。引っ越すなら、よたが一緒がいいもん」
「よた、というのは、友達か?」

 潮が聞くと、小夜は表情を明るくして、語り始めた。