複雑・ファジー小説

Re: (合作)闇に嘯く ( No.2 )
日時: 2015/10/11 13:59
名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: owa39mxZ)

「ところで、陰陽連から連絡はないのか?」

 潮の問いに、琴葉は携帯を取り出し確認すると、首を左右に振った。

「ええ、前に聞いた事件の概要以外は、何も。詳しくは、郡長から聞けってことじゃないかしら」
「……そうか」

 潮は、運転手に一礼すると、車の取っ手を握り、そのままドアを外へと押し開いた。
 潮、琴葉の順で、激しい雨の中に降り立つ。濡れた草や土の匂いが、鼻をかすった。

 車から降りた2人の姿を見て、宗像郡への入り口に立っていた村人の1人が、頭を下げる。
 彼に導かれるまま、ぬかるんだ地面を進んでいくと、雨で霞んだ景色の中に、横に長い木造の屋敷が見え始めた。2人は、荷が濡れぬように身を縮めながら、小走りで屋敷へと上がり込んだ。

 天井は低いが、引違戸(ひきちがいど)が取り外されているせいか、屋敷の中は思いの外広く感じられた。床の四隅に備え付けられた燈台の明かりがゆらゆらと揺れて、暗く沈んだ人々の横顔を照らしている。
 広間には、茣蓙(ござ)が敷かれており、その上には5人の死体が並べられていた。それらは皆、一様に同じ作業服を纏っている──製鉄所建設のために来ていた、視察員であった。

 この宗像郡に、新しく製鉄所を建てる話が持ち上がったのは、最近の話である。そして、そのために土地の下見に来ていた視察員や測量士達が、立て続けに首を吊るされた状態で発見され始めたのが、6日前のこと。郡の発展のためにも、製鉄所の建設を心待にしていた村人たちにとっては、由々しき事態であった。

 潮は一通り死体を眺めると、壁際に並ぶ村人達の方に歩み寄った。

「郡長は、どちらか」

 尋ねると、白髪混じりの中年の男が、一歩前に出た。軽く頭を下げた郡長に対し、潮と琴葉も会釈を返すと、潮ははっきりとした声で言った。

「改めまして、怡土郡(いとぐん)の陰陽寮から参りました、陰陽師の三重松潮と檜扇琴葉です。後程もう1人加わると思いますが……ひとまずは私共に、ことの詳細をお聞かせ願いたい」

 潮の言葉に、村人達は驚きを隠せぬ様子で、騒ぎ始めた。妖怪退治にやってきた陰陽師が想像以上に年若く、動揺しているのだろう。
 郡長は、少し戸惑ったように頷いて、死体を一瞥すると、潮を見つめた。

「……ええ、その……詳細と言いましても、ご覧に頂いた通りなのですが……。ここ5日、毎日必ず、製鉄所関係でこの郡を訪れた方々が、1人ずつ殺されておりまして……。原因等は分からないのですが、その殺され方が、木の高い位置に首を吊られているという奇妙なもので、おそらくは妖怪の仕業ではないかと、陰陽寮にご連絡させて頂いたのです……」

 郡長の話した内容は、同じ件で製鉄所の職員達から陰陽寮に寄せられた依頼と、全く同様だった。