複雑・ファジー小説
- Re: (合作)闇に嘯く 1−17更新 ( No.21 )
- 日時: 2015/06/30 22:14
- 名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: 49hs5bxt)
目の前で倒れ込んだ琴葉──夜太郎を見下ろして、潮は嘲笑した。斬られた衝撃のせいか、その姿がどんどんと曖昧になっていく様を見ていると、それだけで優越感がこみ上げてくる。
「な、ぜ……」
夜太郎は、あり得ないといった様子で、潮の方を見上げた。夜太郎は、確かに琴葉の姿で、潮に近づいたのだ。それなのにこうして組み敷かれているだなんて、信じられなかった。潮は、仲間を容赦なく斬りつけたことになるのだ。
潮は、勝ち誇ったように笑みを浮かべて、口を開いた。
「俺たちが、ただ腕捲りをしただけで待ち構えてるような間抜けに見えたのか? 千里と琴葉には、貴様が現れるまで外に出るなと伝えてある。本物はまだ宿の中だ」
潮は、夜太郎の喉元に、ぐっと刃を食い込ませた。
千里たちは、鷹の目でこちらの様子を視ているはずだから、直にここへ駆けつけるだろう。小夜と祠を見つけたあの時に、メールで指示を出していたのである。
みるみると姿がぼやけ始め、ついに狸の姿に戻った夜太郎を見て、潮は鼻で笑った。
「ふん、全く尻尾が掴めんと思ったら、まさか低俗な化け狸だったとはな。道理で邪気も何も感じないわけだ。妖力さえ使わなければ、ただの狸なのだから」
「…………」
潮の纏う殺気が、一気に膨れ上がる。
腹が立った。多くの罪無き人々の命を奪った夜太郎にも、化けるしか能がないようなこの妖怪に、ここまで手こずった自分にも。
ぐっと柄(つか)を握る手に力を込めると、潮の感情の昂りに呼応するように、刃に炎が燈った。潮の瞳が、鮮やかな緋色に染まって、強く夜太郎を睨む。
潮は、大きく振りかぶった。
夜太郎は、振りかざされた炎の刃を前に、渾身の力を振り絞って跳ね上がった。殺されたくなどなかった。何も成さぬ内に、それも、こんな醜い人間の若造に。
潮の首に伸びた鋭い爪は、しかし、その喉を掻き切ることはできなかった。背中に苦無(くない)と共に刺さった呪符が、夜太郎の動きを封じたのだ。
「──縛!」
鋭い琴葉の声が響いて、呪符から発された電撃が、夜太郎の全身を貫いた。潮の向かいから、千里と琴葉が駆けつける。
ぽたり、と力なく地に落ちた夜太郎めがけて、潮がついに、刃を降り下ろした、そのとき。
「やめて────っ!」
千里と琴葉に続き、路地から突然転がり出た小夜が、そう叫んだ。