複雑・ファジー小説
- Re: (合作)闇に嘯く 1−20更新 ( No.23 )
- 日時: 2015/07/03 20:36
- 名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: kct9F1dw)
──────
千里と琴葉が、ぎょっとした様子で振り返った。流石の潮も、降り下ろしかけた手を止める。
小夜は、転んだ身を起こすと、滑り込むように走ってきて、横たわる夜太郎を覆い被さるように抱いた。
「やめて、やめてよ、陰陽師様! この子、夜太郎よ? 夕方話したでしょ、よただよ? どうして殺そうとするの……?」
小夜は、絞り出したような声でそう叫んだ。
潮は、一先ず刀を下ろすと、冷たい声音で言った。刀の炎は、すうっと収束する。
「小夜ちゃん、君は騙されていたんだ。そいつは確かに、君が可愛がっていた夜太郎だが、ただの狸じゃない。化け狸なんだ。妖力を使えば、たちまち恐ろしい化け物になる。製鉄所の人間の首を吊って殺したのも、全てそいつの仕業だ」
潮の言葉に、小夜は耳を疑った。何か言い返そうとしたが、胸が詰まって、上手く声が出ない。
しかし、腕に抱いた夜太郎を見つめた時、小夜は悟った。夜太郎が人間の言葉を話すことはないけれど、同じように、じっとこちらを見上げる夜太郎の瞳が、全てを語っているような気がした。どこか虚ろで、けれど強い意思を秘めた、深い哀しみの瞳である。
「違うよ……」
小夜の目から、ぽろぽろっと涙がこぼれた。
「よた、きっと、製鉄所が建たないようにそんなことしたんだよ……。私が、嫌だって言ったから……! 引っ越したくないって言ったから! だから、よたは悪くない!」
潮は、眉を寄せた。
「……妖怪が、人のために何かをするわけがないだろう。妖怪は、俺達人間の敵だ。もう一度言う、君は騙されていたんだ。さあ、そいつを寄越せ」
「違うもん!」
小夜の頑なな態度に、潮は苛立ったように刀を鞘に納めた。そして、小夜の肩を掴み、強引に夜太郎から引き剥がそうとする。しかし、その手は千里によって止められた。
「潮、やめろ」
潮は、ぎろりと千里を睨み付けた。
「どういうつもりだ。お前、妖怪の肩をもつ気か?」
「……そういうわけじゃない。ただ、無理強いはやめろっつってんだよ」