複雑・ファジー小説

Re: (合作)闇に嘯く 1−20更新 ( No.24 )
日時: 2015/07/04 17:58
名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: kct9F1dw)


 互いに睨み合う潮と千里を降り仰いで、小夜はくしゃくしゃに顔を歪めた。

「お願い……よたを許してあげて。私のせいなの、私が、よたにあんなこと言ったから……」

 小夜は、げほっ、げほっと咳をして、つっかえながら言った。
 潮は、千里から小夜に視線を移して、首を左右に振る。

「人を5人も殺してるんだぞ? そいつはもう、立派な殺人犯だ」
「だから、それは私が──」
「いいから早く、こっちに寄越せ!」

 怒鳴られて、小夜はびくりと肩を震わせた。だが、次いでぐっと唇を噛むと、強く前を見据えて、立ち上がった。何か勘づいた琴葉が、焦ったように小夜を捕まえようとするが、小夜はその手をすり抜けて、夜太郎の背に刺さった呪符と苦無を引き抜いた。

「逃げて……!」

 小夜の腕から、ぱっと夜太郎が跳ぶ。先程潮に斬られた胸の傷のせいで、着地した際は少しよろめいたが、それでも夜太郎は、森に向かって走り出した。
 琴葉が、咄嗟に夜太郎を囲むように結界を張るが、数秒遅れて狙いをはずした。

 潮は、舌打ちすると、千里の手を振りほどいて、邪魔だと突き放した。そして、小夜の腕をぐいっと引っ張って、叫んだ。

「夜太郎っ!」

 全員の注目が、潮に注がれた刹那。潮は、素早く抜刀すると、小夜に向かって降り下ろした。
 刀身からうねる蛇のように炎が噴き出し、小夜に襲いかかる。千里と琴葉は思わず硬直し、小夜は身を縮めて、反射的に目を閉じた。

 刃の残像を炎が追いかけて、次の瞬間、ぼわっと何かが燃え上がった。それが自分の身体でないことに気づいて、恐る恐る小夜は目を開けた。

 2つに引き裂かれた炎の塊──否、小夜の前に飛び出してきた夜太郎の身体が、無情な音を立てて、地面に落ちる。

 夜太郎は、喉の奥に残っていた最期の吐息をはぁっと溢して、一度だけ瞬き、その目に小夜が映した。しかし、炎に侵食されていく彼のその瞳からは、徐々に光が消えていく。
 小夜は、夜太郎の命が抜けていく瞬間を、確かに見た。

「よっ、よた、ろ……」

 声にならない、悲痛な言葉を漏らして、小夜はそのまま気絶した。ふらりと倒れた小夜を受け止めて、かちん、と潮が、日本刀を鞘に戻す。

「……終わったわね」
「…………」

 琴葉が、吐息混じりに言う。千里は、感情の見えない、虚ろな双眸で夜太郎を見つめていた。
 夜太郎を包む炎は、意思があるかのように燃え続け、やがて、夜太郎が完全な灰になると、消えた。

 潮は、前髪をかきあげると、深く息を吐いた。

「──ああ、任務完了だ」

 灰は、さあっと吹いた夜風に、溶けるように流されていった。