複雑・ファジー小説
- Re: (合作)闇に嘯く 1−20更新 ( No.26 )
- 日時: 2015/08/06 00:18
- 名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: EZ3wiCAd)
ぽつり、と呟いて、千里は琴葉に背を向けた。
「俺は、潮のやり方には賛同できない」
それだけ言うと、千里は1人、村の出口の方に歩いていく。しばらくぽかんとして、そんな彼を眺めていた琴葉だったが、我に返ると、慌てて千里に声をかけた。
「ちょっと! どこいくのよ!」
「俺、1人で適当に帰るわー。遊びたいし」
「遊び!?」
へらへらと笑いながら出ていった千里を睨んで、琴葉は憤慨した。どうせ、また賭博にでも行くのだろう。
(本当にもう、勝手なんだから……大体なんなのよ、あの言い方! 言う通りにしか動けないんだな、なんて、私のこと馬鹿にしてるの!?)
千里が、潮のことをあまり良く思っていないのは知っていたが、何故自分まで侮辱されなければならないんだという思いが、琴葉の中で爆発した。
結局、振り回されて苦労するのは、いつも自分である。他の2人は、とにかく自己中心的すぎるのだ。潮にしても、今回は上手くいったから良いものの、いつも何の相談もなしに計画して、単独で任務を進めてしまう節がある。少しは、協調性というものを学んでほしいものだ。
苛立ちが頂点に達して、日頃のあれやこれやを思い出していた琴葉だったが、潮の声ではっとした。
「琴葉。陰陽寮に帰るぞ」
「あっ、え、ええ……話は終わったの?」
村人たちの方をちらりと見てから尋ねると、潮は頷いた。
「ああ。とりあえず事件に関することは全部伝えたし、あとで陰陽寮の方からも、正式な文書が送られるだろう」
「……そう」
潮と琴葉は、最後に一度軽く頭を下げると、迎えの車に乗り込んだ。
運転手に、出発の準備が出来たことを伝えて、2人は車内に腰を下ろす。すると、ここ3日間の疲れが、どっと身体の芯から溢れてくるような気がした。
琴葉は、少し口ごもってから、潮を見た。
「……小夜ちゃん、来てなかったわね」
「そうだな」
「大丈夫かしら?」
潮は、窓の外を見ながら、ぼんやりと答えた。
「発作も幸い起きていなかったようだし、怪我をしたわけでもない。大丈夫だろう」
「でも……」
「昨日色々とあったからな、疲れて寝てるんじゃないか」
それから琴葉は、ふうっと息を吐いて、千里の先程の言葉を頭に浮かべた。
「……本当に、色々あったわね。小夜ちゃん、やっぱり、夜太郎が自分をかばって死んでしまったことが、辛かったのかしら」
言った途端、潮の顔がわずかに険しくなった。確かにあれは、かばったようにしか見えなかった。しかし、それを認めたくない、そんな表情だった。
「……あれは特例だ」
潮は、ぽつりと独り言のように呟いた。
「奴らは、俺たち人間をごみのように思っている。分かり合えるはずもない」
「……そうね」
琴葉は、それ以上何も言わなかった。潮も、ずっと黙ったままであった。
エンジン音が鳴って、車が動き出す。排気口から出たガスが、地面の土煙を巻き上げていく。
村人たちの好意的な眼差しに見送られて、車は、静かに消えていった。
【完】
………………
第一話『徒波に響く』
狐がお送りしましたー(^^)
何故でしょう、ものすごく書きづらかったです(笑)
私にしては珍しく、ハッピーエンドとは言い難い結末にしちゃったからですかね。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!