複雑・ファジー小説
- Re: (合作)闇に嘯く 1−21更新 1話完 ( No.27 )
- 日時: 2015/10/29 21:20
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 3rsK9oI3)
第二話『暗く寒い夢の中で』
ざわざわと森の木々が踊る。不穏なほどに静かな森に不気味な紅(あか)い光は注ぎ、無骨な大檻を映し出す。檻の隙間から見える存在は面妖そのもの。ブドウの房が如く途方も無い数の人の顔が連なり、苦悶や悲歎(ひたん)に喘いでいる。そんな顔の間からは手や足が生えていて、バタバタとそれを動かしているのだ。まるで独立したいと願うかのように。生理的に受け付けない異形の怪異。この国、陽明京に住む人々は怪異たちのことを呼ぶ。恐怖の念を篭め、妖怪と。
「しっかし、何度見ても気色悪い奴だぜ」
禿頭の巨漢が顔をしかめて唸るように言う。この森の中に移送する前にも一度見たのだが、やはり数回見た程度ではこの怪異には慣れない。今日の夜を照らす月が、不気味な赤であることも手伝っているのだろう。百戦錬磨の偉丈夫(いじょうふ)にもかかわらず、肩を小さく震わせている。
「何言ってんのよ? 妖怪なんてのはキショいのが、相場だっての」
「まぁ、そうだけどよぉ。もう少し、何とかなんねぇかと思わねぇか?」
「そりゃぁ、思うわよぉ。でもまぁ、どうせ殺すなら、同情の余地ないような気持ち悪いのが良いとも思うわ」
「それも、そうだが……」
そんな禿頭の横にいた紫のボサボサ頭をした道化師のような男が、絶叫中の女子のような甲高い声で答える。豪快に頭部をバリバリ掻きながら、巨漢はさも受け入れ難そうに嘆くが。会話はそれ以上続くことはなかった。
「海江田(かいえだ)、桜谷(さくらや)、江鯨(えげい)、影津(かげつ)。全員揃っているようだね」
木陰から響く、ねっとりと絡みつくような声。すぐさま最初に苗字を呼ばれた禿頭の男、海江田が膝をつく。ついで3人も名を呼ばれると同時に地面にひれ伏した。それとほぼ同時にいつの間にか現れたように、妖怪が入った檻の前に女が現れる。
月明かりに姿が照らされる。相当に鍛えられた筋肉質な体。少々パーマ掛かったクロのショートボブ。迷彩柄のタンクトップに、ジーパンというラフな衣装だ。
彼女はうっとりした表情で、檻の中で喚く怪物に挨拶する。
「拵宿儺(こしらえすくな)も元気そうで何より」
「ウヴォオォォォンッ、ギッギギッ、ガヒュッガッ……殺シッ。恨ム。ハ……カイ」
それに共鳴するように、拵宿儺は喚きだす。人間の恐怖を原初から呼び覚ますような、おぞましい声で。ただひたすらに意味のない詞(ことば)を。膝をつく部下たちの大半が萎縮(いしゅく)する中、女は1人だけ泰然(たいぜん)としたようすで部下達の方へ振り向く。
「よしよし。素敵だ。いや、人間の全てが映っている君は、いつだってそそられるな。ほら、今宵も素晴らしい月だよ。自由に踊りたまえ」
そして赤く燃えるような、普段と違う月を指差し女は宣言する。
「今日は我らにとって、1つの岐路(きろ)となるだろう」