複雑・ファジー小説

Re: (合作)闇に嘯く 2−4更新 ( No.30 )
日時: 2015/11/01 03:37
名前: 風死  ◆Z1iQc90X/A (ID: 7PvwHkUC)

 コンコン。
 扉をたたく音が響く。1回目の後に1拍置いて2回目。そして次に3回連続で叩く。潮達が決めた、部外者を見分けるためのノックの仕方だ。これを知っているのは潮と侍女。そして千里達だけだ。潮は時計に目をやる。6時半。時間帯から考えて侍女である都子しかいないだろう。

 「朝でございます。お起きになってくださいませ潮様」

 グッと伸びをして、近くにかけてあった柄つきの甚平をはおう。そして窓を開けた。清涼なる朝の風が頬をなでる。

 「あぁ、おはよう都子さん」
 「今日は機嫌が良さそうですね」

 引き戸を開け、2人挨拶をかわす。都は穏やかな表情を浮かべ、優しげな声で述べる。それに対し、潮はそんなことはないと唸り声を上げた。

 「朝餉(あさげ)の準備ができております。今日は潮様のお好きな秋刀魚を用意しましたわ」
 「もうそんな時期か。道理で少し肌寒いわけだよ」

 都子の後を追い潮は階段を下っていく。どうやら夜中の間、都子は掃除をし続けていたらしい。小さな汚れは多少残っているが、辺りに散らばっていたゴミは綺麗に取り除かれていた。流石だな。生来、掃除などが苦手で、良く物をなくしたりして必要ない苦労をする潮は、驚嘆の念を隠さず苦笑いする。

 「あぁ、美味そうだ」

 食卓に並ぶインスタントではない料理の数々。特に中央に置いてある、こんがりと焼けた脂身のある秋刀魚が、食欲をそそる。彼女が居ない数日、食えれば良いというような味気ない飯ばかりを食していた潮にとって、それはもはや神の贅沢のようにも感じるほどだ。心なしか涙すら浮かぶ。

 「お味噌汁とご飯をおわけしますので、少しお待ちになっていて下さいませ」

 ゆったりとした動作で潮は椅子に座り、テレビを見ながら朝刊を読む。特に妖怪の関わっていそうな事件はないな、と安堵にも肩透かしにも似た溜息を漏らす。 
 それとほぼ同時。ご飯と味噌汁が配膳される。お椀からはみ出るほどに盛られた白米と、油揚げと輪切りにされたネギの入った味噌汁。一般的な食膳だが、潮にとってはやはり最高の物なのだろう。垂涎の的と言った様子でそれをしばし眺めている。

 「冷めないうちにお食べになてくださいね」
 「あっ、あぁ! いただきます」
 
 侍女の言葉に我に返り、潮は割り箸を割る。そして生卵をかけ、かき混ぜご飯を一息にかき込む。その様子を見ながら、都子は頬をほころばす。まるで母と息子のようだと思う。一方は潮はというとまるで誰にも取らせないぞという様子で、食べ続け時にはむせたり、魚の骨に泣いたりしながら瞬く間に完食するのだった。

 「ごちそうさま、今日の飯も美味かったよ都子さん」
 「ふふっ、あんなに美味しそうに食べて貰えると、私も用意のしがいがあるというものですよ」

 爽やかなどうこか満足げな表情を浮かべ、潮は都子に礼を言う。侍女との関係にしては、いささか近しい感じもするが彼はそれで良いと思っている。なぜなら形式上彼女を侍女として雇っているだけで、本当はもっとずっと近しい人物なのだから。それに対し都子は恥ずかしそうに唇を裾で隠し笑う。感謝と誠意は関係を長続きさせるに大事だ。

 途端、見計らったように潮の携帯が鳴り響く。去年の暮れに見た映画のメインテーマがなり続ける。

 「誰だ?」

 見覚えの無い電話番号にいぶかしみながら、潮は電話に出た。

 「よぉ、飯は食い終わったみたいだな潮」

 聞き覚えのあるような、ないような声。少なくとも普段あっている人達のものではない。が、聞こえてくる。だが相手は確実に此方のことを知っているようだ。証拠に名を呼んでいるのだから。もっともそれ以上に不可思議なのは、相手がどうやって食事を終えたのかを知ったか、だが。

 「あんた、誰だ?」
 「おいおい、お前自分の直属の上司も忘れたのかよ」

 潮は唖然とする。声に多少の聞き覚えがあるのは当然だ。なぜなら何度か会っているのだから。声の正体、それは彼の小隊に所属する紅一点。琴葉の兄。陰陽連の実働部隊にて最強と名高い4人の柱。檜扇(ひおうぎ)の名字を関するもの——檜扇祝幻(ひおうぎしゅげん)。