複雑・ファジー小説

Re: (合作)闇に嘯く 2−9執筆中 ( No.40 )
日時: 2016/10/10 12:05
名前: ダモクレイトス  ◆MGHRd/ALSk (ID: 7PvwHkUC)

 「と言うわけで、今日からよろしくな琴葉」

 不器用な笑みを浮かべ、千里は琴葉に握手を求める。これから同じ屋根の下で過ごすのだ。仲良くすべきだろう。正直、潮と言い彼と言い、独断専行が目立ったり、浪費癖が目立つせいで彼女には良く思われていないが。
 潮より先に、関係改善をするのも悪くはない。正直、千里としては潮と同等扱いされるというのは、苦痛以外の何でもない。1歩2歩で良いので、琴葉からの評価は上で有りたいのだ。

 「ちょっ! 調子に乗んないで欲しいんだけどっ!」

 あっけらかんとした口調で言い寄る千里を、非難がましい目で見ながら琴葉は後ずさる。

 「いやぁ、仲が良いことで重畳。さて、と。俺はそろそろ行かないとな」

 どこをどう見たらそう取れるのだと、苦虫を噛み潰したような顔で琴葉は睨む。しかし、そんな妹の目線すら、ご褒美だと言わんばかりに、体をくねらせながら祝幻は踵(きびす)を返す。

 「えっ、ちょっと、お兄様っ。どこに行くの!?」

 思わず手を伸ばす。ほんの僅か、祝幻の体に琴葉の指先が触れる。それと同時、祝幻は立ち止まり溜息を吐く。

 「俺はお前らと話をするためにここに来たわけじゃないんだなぁ。そこのところ察してくれよ?」

 そして、まるで感情のない機械かのような、冷たい声で言う。琴葉は思わず、身を竦ませ後ずさりして、石につまづく。

 「あっ、転ぶ」

 琴葉の後ろにいた千里がそう口にしたと同時に、祝幻は彼女の体を支えていた。千里は驚くより先に、理解が追い付かず目を白黒させる。祝幻と自分では明らかに自分の方が近かったのだ。それに彼女は千里のほうへと倒れてきたのだから、抱えやすいのどう考えても千里のほうである。

 「琴葉。兄の前で余り危ない真似をしないでくれよ。お前が疵物(きずもの)になったりしたら、俺は辛くてたまらない」

 上目遣いで琴葉は自らの兄の顔を覗く。いつも通りの少しイラッと来る笑顔。それなのにわざわざ支えてもらったというのに、体からは嫌な汗が流れ出す。神経が泡立つというのだろうか。蛇に睨まれた変えるというのは、こういうことを言うのだろう。
 
 しかし、彼は殺気も出していないのに。そもそも彼女を溺愛(できあい)しているこの男が、彼女に本気で殺気をむけるはずもないのだが。陰陽師の気迫——妖怪なども発する霊力と呼ばれる力——は、そのまま圧力となる。そして下位の者は、上位の者の気に充てられると酩酊状態になったり、恐慌状態にすらなる。とされるが、それは大きな差が有っての場合だ。本気で力をむけられてもいないのに。

 「申し訳ありません祝幻様」

 最初から理解していた。故にこそ彼と率先して触れ合わないようにもしていたのだ。会釈して琴葉は彼の腕から離れていく。祝幻は長い溜息を吐いて、改めて歩き出す。自分には行為があっても、あちらが慣れてくれないのならどうにもならない。

 「なぁ、千里君よ。妹を護ってやってくれないか」
 「当たり前ですよ。何せ同じ部隊ですしね」

 敵意のある目で千里は、祝幻の背中を見ながら言う。勝手に溺愛する勝手な男が、どの口で言う。胸中で叫ぶ。檜扇家にお暇すること自体は大歓迎だが、祝幻は嫌いだ。
 
 遠く高い壁を感じながら。紅一点の肩を抱いて。誓う。蛇に同胞が食われないように、強くなると。そんな格好をつける千里だが、結局、彼が去って10秒もしないうちに琴葉から、裏拳をくらい這いつくばることになるのだが。

 ————————

 一方、その頃、潮は疑念を胸に抱えながら、祝幻に言われた場所へと進む。地図を片手に、自慢の身体操作術を駆使し文字通り一直線に。

 『準備はした。あの男を信じたわけじゃない。これが罠だとしても、逃げに徹すれば』

 最近、潮は伸び悩んでいる。都子曰く、才能量はまだまだ有るらしい。修行が実を結ばないように見えるときは、タメの時期に入っていて、効果が一気に出る前兆だと言っていたが。潮としては、そんなまどろっこしい時間が耐えられず。

 「力だ。力が欲しい」

 絶望的な力を見た。止まっている暇はないほどの。全ての才能を早いうちに開花させていかなくては。世界には絶対追い付けない。

 「なぁ、若いの。そう、急ぐなよぉ。そんなに時間がねぇのかい!?」

 真後ろから声が響く。ねっとりと纏わりつく低めの声が。

 『後ろを取られた!?』
 「貴様、何者だっ!」

 振り向きざまに抜刀するが、刃は剣で防がれるどころか、片手で受け止められていた。

 「江鯨刃輝(えげい ばき)!」

 この辺では珍しい衣装に身を包んだ白髪交じりの髭を生やした男が、自らの名を叫ぶ。それと同時に裂帛の波動が遊(すさ)び、潮は吹き飛ばされる。しかし、彼はすぐに空中で体勢を立て直し、大木を蹴り牙輝と名乗った男へと切りかかる。

 「威勢は良いみたいじゃぁねえか。だが、お前の剣、軽いぜ」

 潮の剣を刃輝は先ほど同様、片腕で弾く。

 『コイツ……強い!』

 潮は苛立ちを露わにしながら、もう一振りの剣に手をかけた。しかし、その瞬間、脇腹に蹴りが入り、潮は吹き飛ぶ。

 「ふーん、肉体強化の術は中々良い感じじゃぁねぇの」

 軽い口調で男は言う。