複雑・ファジー小説
- Re: (合作)闇に嘯く 1−7更新 ( No.8 )
- 日時: 2015/06/27 21:23
- 名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: ATRgYs44)
「貴様、何者だ!」
「…………」
人影は、青白く光る両の目を細めるだけで、何も答えない。
潮は、地を蹴り、一気に距離を縮めると、人影目掛けて短剣を突き出した。剣先はすんでのところで避けられるが、それを予測していた潮は、足を止めずにそのまま間合いに入った。
人影の懐に飛び込み、横合いから深く斬りつける。すると、何かを斬った手応えはあったものの、肉を裂く感触はなかった。
(くそっ、早い……!)
潮は、一瞬も動きを止めることなく、次いで身を屈めると、前に出していた左足を軸に、大きく蹴りを放った。
人影が、前方に蹴り飛ばされる。それを目で追いながら、潮は内心舌打ちをした。肝臓の辺りを狙ったはずなのだが、上手くそこは外されたらしい。妖怪だろうがなんだろうが、内臓がちゃんと配置されているのなら、肝臓付近に打撃を食らった時点で、もう動けなくなるはずだった。
よろよろと緩慢な動きで立ち上がった人影に、潮が短剣を構え直した時。後ろの路地から、声が響いてきた。
「──おい、大丈夫か!」
千里の声だ。
その声に、一瞬だけ潮の気が反れたのを見て、人影は高く跳躍した。およそ人の動きとは思えない身のこなしで、軽々と屋根の間を渡り、素早く走り去っていく。
あれは、追い付くことは叶わないだろうと悟ると、潮は短剣を仕舞い、踵を返した。駆け寄ってきた千里が琴葉を助け起こすのを一瞥してから、先程あの人影を斬りつけた辺りに跪(ひざま)く。そこには、わずかだが毛が散っていた。
(髪の毛か……?)
毛を数本拾い上げて、月明かりに照らしてみる。少々茶色がかっているそれは、やはり髪の毛のように見えた。
潮は、その毛を呪符に包むと、ひとまず作業服の内側に仕舞った。
「さっきの、ありゃあ何の妖怪だ?」
琴葉と共にこちらに歩いてきた千里が、潮に問うた。潮は、先程の戦いを思い出して、首を左右に振った。
「……分からん、人型ではあったが……。とりあえず、ものすごく軽くて素早かった」
「軽い?」
聞き返してきた千里に、潮は頷いた。
あの人影に蹴りを入れたとき、恐ろしいほど簡単に吹っ飛んだのだ。加えて、去り際のあの身のこなしは、まるで体重を感じさせなかった。相手は、見かけ以上に軽いのだろう。