複雑・ファジー小説
- Re: そして蝋燭は消えた。 ( No.1 )
- 日時: 2015/05/21 06:35
- 名前: 橘ゆづ ◆tUAriGPQns (ID: Ft4.l7ID)
(1)残念、夢の時間は終了です。
少女視点。
心臓が身体中に響くほど大きく鳴っている。
顔は自然と赤くなって、目に涙の膜が張っていた。
こんなみっともない顔を、好きな人には見せたくなかった。
「何度」やっても慣れないものだ、告白なんて。
でも、今度こそは、今日こそはと胸を張る。
大丈夫、大丈夫。だって、あんなに好感度を上げたのだから。
──そして、返事は。
「まーた、失敗だね。」
真っ白な異空間。周りには人の気配すら、ヒガンバナさんの気配すらしない。
でもそこに、ヒガンバナさんはいるのだ。からかうような笑みで。
ふざけたピエロような動作で肩を竦めたヒガンバナさんを睨む。
また、失敗だった。
疲れた。馬鹿みたい。泣きたい。
そんな思想が頭に浮かんでは消える。
泣いていると分かれば、ヒガンバナさんは嬉々と私をからかうだろう。
今それをされると本当に心が折れそうなので、涙を隠すように顔をうつむかせた。
一度目は、何も知らない仲。
いわゆる、私の一目惚れ。当然、アタックしても先輩には響かずにそのまま私は事故でこの世とおさらば。
そこで、初めてヒガンバナさんと会った。
ヒガンバナさんは神様だ。だってこんなこと出来る人、他にいないもの。
『僕は暇なのさ。』
のらりくらりと謳ってみせた神様は本当に暇そうだった。
好きな人に振られた挙げ句、そのまま死んでしまった不幸のヒロインよろしくの私へ可哀想、なんて同情は一切なし。
少しでも加護はしろよ。
心のなかで呟く。否、全知全能何様神様だから分かっているだろうけど。
二度目は、幼馴染みという仲。
私は自惚れるつもりはないが、そこそこ顔はいい方だ。
一度目は散々だったが、料理だって裁縫だって勉強だって。
ありとあらゆることを簡単にこなせてみせた。
もちろん、全てヒガンバナさんに教えてもらったのだけど。
そんな私でも先輩、否、ユウタからの返事はno。
もう幼馴染みとしか見えないらしい。困ったものだ。
三度目は、ただの友達。否、親友とでも言おうか。
全く知らなくても駄目で、近すぎても駄目。
今までの経験から一番良いのは、結果的にこの関係。
つまりついさっきの関係……だったはずなのに。
ユウタは私を選んではくれなかった。
何でだ。こんなにも完璧だったはずなのに。
ぐつぐつとお腹の底で、強欲心が沸騰する。
ぎり、と歯を噛み締めた。
「ああ、そろそろ汚くなってくる頃かな?」
でも、次があるから。
大丈夫、大丈夫。
だって、私にはあと何千回も、何万回ものチャンスがあるのだ。
涙はいつの間にか止まっていた。
ヒガンバナさんの呟き声も、今の私には聞こえない。聞こえない。
聞こえない、ふりをする。
ねぇ、ヒガンバナさん。嗚呼、早く。
次はもっとお金持ちの家に生まれたい。
そしたら、金で釣れるかもしれないじゃない?
でも、そんなのいや。
お金で釣られるような人なんて私の好きなユウタじゃない。
もし釣られてしまったら、他のいい人を探したい。
ねぇ、だから。早く次に逝かせてよ。
早く!ねぇ!!早くしなさいよ!
精神異常者のように血走った目でヒガンバナさんにすがる。
はやく、はやく!
目を開けると、そこは宙で。
嗚呼、そっか。
夢だったのか。涙が空に落ちる。
元々、都合のいい事なんてあるわけないのに。
あーあ、あーあ。
ぐしゃり。
何処かで肉の潰れた音がした。
---
彼岸花視点。
ん?ああ。
彼女が見たものは、感じたものは、やったことは。
全て夢物語なんかじゃないさ。
ちゃんと、したんだから。
彼女の心は「一度目」までは綺麗だったからね。
だから助けてあげたのに。
期待外れだよ、悲しい。
なんて、僕は呟いてみたいね。
秋風が窓を揺らす。
ゆらりと黒い猫が僕の視界でほんの少し、揺れた。
にゃあ。喘ぐように黒猫は鳴く。不吉だ。
窓からはガラスが擦れて不協和音を放っていた。
僕は椅子に腰掛けながら、テーブルに肘をつき手を絡ませる。
黒猫に問いかけた。
んー、ねぇ、さ。
僕はね、神様なんかじゃないんだ。
知ってるって?まぁ、そうなんだけどね。
ただの、少し不思議な能力を持ったヒトなんだ。
なのに、彼女は神様なんて。笑っちゃうよねぇ。
可哀想だね、あの子。
僕が同情するなんて珍しい?
ふふふ。
嗚呼、可愛そうだよね、本当、本当。
きっと今ごろ、事故にあって死んでる最中だ。
周りの人間も写真を撮って、救急車を呼ぶ人はいないね。
僕は一人のヒトとして悲しいよ。
こんなにひどい世の中になるなんて。
怖いものだ。
ああ、くわばらくわばら。
(残念、夢の時間は終了です)
end。