複雑・ファジー小説

Re: そして蝋燭は消えた。【短編集】 ( No.10 )
日時: 2015/05/20 17:27
名前: 橘ゆづ ◆1FiohFISAk (ID: FpNTyiBw)

(10)すぐそばに。



「アアそういえば。」

「どうしたんだ?」

「昨夜、ヨシカワのじいさんが死んだらしい。」

「そうなのか?へぇ……。あの人は恨まれてたからなぁ、色んな人に。」

「ざまあみろって話だよ。俺たちを散々コケにした罰だと思え。」

「それもそうだな。本当、ヨシカワのじいさんはひどかった。」

「うちの娘を息子に嫁がせろって無理やり言ってきたんだぜ?しかも、あそこの息子、顔がお世辞にも良いとは言えないんだよ。」

「それはひどい。俺のところの畑もよく荒らされたもんだ。」

「確か、米だったか?」

「そうそう。……って、米はお前もよく勝手に盗ってくじゃねえか。」

「ハハ、悪い悪い。米は高くてな。」

「俺のところはお前らのお陰で赤字だよ……。」

「イヤア、悪いって。あ、悪いといえばヨシカワのじいさんも元々心臓が悪かったらしいぞ。」

「話をすり替えるなよ……。?そうだったのか?ア、そういえば薬を飲んでたような……。」

『ヨシカワのじいさんの死因は刃物で刺されたんだとよ。その刃物はまだ分かってないらしいが』

「ア、そうだったな。飲んでたな、あの人。」

「そうそう。いつもあのじいさん動き回ってるだろ?だから誰も心臓が悪いなんて知らなかったんだよ。」

「そういえば、なんで動き回ってたんだろうな。あんなに。」



「誰かから、逃げるみてぇに。」



「……オー、こわいこわい。」

「そうだな、塩でも撒いとくか。」

「それにしても、ナイフで滅多刺しなんてひでぇよなぁ。」

「アア、どんな非道人なんだろうな。顔が見てみたい。」

「そうだな……。ヨシカワのじいさんもいないことだし、今日はうちに来ねぇか?まだ犯人も見つかってないし、一人住まいじゃあぶねぇよ。」

「悪いな、世話になる。」

「いや。全然、構わねぇよ。」

「本当に、ありがとうな。」



(すぐそばに)
end。