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複雑・ファジー小説
- Re: そして蝋燭は消えた。【短編集】 ( No.12 )
- 日時: 2015/05/21 07:08
- 名前: 橘ゆづ ◆1FiohFISAk (ID: Ft4.l7ID)
(12)吸わない男
中年視点。
鼓膜を揺らす、女児の泣き声。
熱いと泣いている少女に、思わずタバコを取ろうとしていた手を止めた。
「おがあざぁぁぁぁあ!! あづいよう!! ぅぅうぁぁ!!!!!」
「マイちゃんっ! 大丈夫? 痛いね、いたいね、痛いのいたいのー、飛んでけっ! ちょっと待ってね、救急車呼ぶからね、ごめんね、痛いね。少しだけ待ってね。」
まだ四歳ぐらいだろうか。その女児が額を押さえながら泣いていた。
熱い、とは。周囲を軽く見渡すと、女児の直ぐ目の前でサラリーマンが情けなく慌てていた。
手には火が灯されているタバコ。
それで大体の人は察せるだろう。
娘を慰めながらも母親の方は冷静かと思ったら、鞄から出したのは携帯ではなくハンカチ。
あわあわと母親はどんどん混乱に陥った。
心配か、はたまた興味か。野次馬がどんどん集まってくる。
そこに混乱している母親に一人の青年が近づき、母親を落ち着かせながらも救急車を呼んだ。
やがて聞き馴染みのある音が聞こえてきて、女児は連れていかれる。
その直ぐ後にやってきた警察に、サラリーマンは連れていかれた。
俺はその嵐のような光景を見ながら、もう一度タバコを手に取る。
もしかしたら、あのサラリーマンは俺だったかもしれない。
歩きタバコでもなくとも、あの小さな命を縮めていく鍵になる。
ぼすり。
タバコをゴミ箱に押し込んだ。
そして、俺はいつしかタバコを吸わなくなっていた。
(吸わない男)
end。
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