複雑・ファジー小説

Re: そして蝋燭は消えた。【短編集】 ( No.15 )
日時: 2015/05/22 17:37
名前: 橘ゆづ ◆1FiohFISAk (ID: w4lZuq26)

(15)崩れて堕ちた

女性視点。


 タバコを吸い込んで、煙が口から出ていく。思い切り吸ったせいか、むせてしまった。
 タバコの先を火が飲み込んでいく。まるで、ブラックホールみたいだ。
 まだ冬の寒さが残るこんな時期に、ふらふらと歩くのはハズレだっただろうか。
 まぁ、いいや。
 そう自己簡潔して、タバコを地面に落とした。


 別に何処かへ行きたいわけでもない。逃げたいわけでもない。何をするというわけでもない。
 嗚呼、ああ。
 がらんと昼ならば賑わっている本屋も、もうとっくに扉が閉まり中は誰もいない。
 その窓に写る、わたしがいた。


 ──ねぇ、なんで生きてんの
 ──聞かないでよ。そんなこと。


 責めるような目で、窓のなかのわたしが訊いた。
 わたしはまるで道化師のように肩をすくめ、三日月を口に描いてみせる。やがて飽きて、窓のなかのわたしは空虚な瞳で街を見渡す。


 ──嗚呼、こんなにも、街は綺麗だと言うのに。貴方は穢いね、とても、とても。

 そんなこと、分かっている。
 分かっているから言わないで。ねぇお願い。やめてよ、やめて。

 耳を塞いでもその不協和音のような声は止まない。
 嗚呼、嗚呼。



 いっそ、殺しておくれ。
 そういって、いけることをやめた。


(崩れて堕ちた)
end。