複雑・ファジー小説
- Re: そして蝋燭は消えた。 ( No.3 )
- 日時: 2015/05/19 20:16
- 名前: 橘ゆづ ◆tUAriGPQns (ID: FpNTyiBw)
(3)1きっとそんな夢を見た
青年視点。
ばちり。
朝、目が覚めると誰もいなかった。
確かに誰かがいた痕跡はあるのに、誰もいない。
テレビをつけても画面に人の姿は見受けられなかった。
みんな、何処へ行ってしまったのだろう。
まるで僕だけが世界に取り残されたようだ。
火星?土星?とやらに飛んでいってしまっあのだろうか。
僕だけが置いていかれてしまったのか。
そんな思想を頭のなかで巡らせながら、朝食をもくもくと摂る。
ひじき、好きじゃないんだけどなぁ。誰が作ってくれたのだろうか。
しっかり咀嚼して飲み込む。おえ、やっぱりひじきは嫌いだ。
洗い物を水につけて、着替えて身支度整える。外に出た。
暖かい春の日差しが眩しいなか、やはりどこか風が冷たく肌寒い。
風に流れて何処からかやってきた桜の花びらに、そういえばと思い出す。
今、丁度満開だと気づかされて、おもむろに足を運んだ。
近所にはそれは見事な桜並木があるのだ。春になれば坂道にそって何本もの花が咲く。
僕はそれを見るのが好きだった。
はやく、はやく、見に行こう。
急ぎ足で少し桜並木へ向かう。
少し遠くに桜並木が見えた頃、やはり満開だったという直感は当たる。
美しい桜色が揺れてるのをもっと近くでみたくて、歩を少し早めた。
おかしい。
桜の木から何本も芋虫のようなものがぶら下がっている。
桜色と、芋虫のようなもの。嫌なコントラストだ。
遠目からではよくわからない。
だが、この距離から察するに非常に大きな芋虫だ。
訝しい思いで桜並木にたどり着いた時、やっとそれがなんなのか分かった。
そこには、幾人もの人間がぶら下がっていた。
どうやら首を吊っているらしい。
優しそうなサラリーマンも、元気のいい小学生も、世話焼きのおばちゃんも。地元の仲間に、そして家族も。
全員で仲良く首を吊っていた。
春の風に、その首を吊った人たちはこれ見よがしに揺れている。
みんなどうして中々ずるいじゃないか。
自分も誘ってくれれば良かったのに、と頬を膨らませながら桜並木の先を目指す。
排出物と吐瀉物を綺麗に避けながら。
そして、最後の一本に差し掛かったとき、足を止めた。
見覚えのある顔と服装と、髪型。
誰だろう。少し考えて、はた、と気が付いた。
「お前、そこで何をしているの。」
そこには紛れもない自分がぶら下がっていた。
そんな、夢を見た。
(1きっとそんな夢を見た)
続く。