複雑・ファジー小説

Re: 禁忌の使い魔 【オリキャラ募集中】 ( No.16 )
日時: 2015/07/23 17:50
名前: 雛 ◆iHzSirMTQE (ID: XnbZDj7O)

『……お前が良いなら』
少しの間静寂せいじゃくが続く。
時計の針の音が部屋の中を占め、数分経ってクロの声が聞こえた。
その返事にシャーロットは笑みを浮かべ、強くクロを抱き締める。
「ありがとう、クロっ」
『別に……』
クロの照れたような声が聞こえ、クロはシャーロットの腕から離れる。
シャーロットは少し名残惜しそうにしたが、そのまま自分の晩御飯を作りにキッチンへ行く。
『おい魔女、俺の分も作れ』
「私の名前は魔女じゃなくてシャーロットだからっ」
『あ? 知るか』
「っ、もう……って言うかあんなにソーセージ食べてたのに……」
シャーロットは疲れたように溜め息を吐く。
これからの食費に頭を悩ませる彼女をよそに、クロは上機嫌でソファーで寛いでいた。

   *   *   *

 俺が目を覚ませば、そこには魔法が飛び交っていた。
辺りを見回せば見慣れない風景があり、俺はただ一人、宙に浮遊していた。
回りには家族は居ないし、そういう記憶もない。
自分が何者かも分からない俺は、ただこの世界を飛び回る。
 俺は飛び回りながら沢山の魔法使いを見てきた。
魔法使いというものを知らなかった俺の頭の中に、見てきたそれらが知識として溜まっていく。
やがて俺は、魔法使いが嫌いになった。
 どこに行こうと、アイツらは必ず居る。
人のことを餌に陰口を叩くやつら、それを聞き笑っているやつらが。
魔法使いの中には良い者も居ることは分かっている。
しかし、魔法使いやそれらに似た人間共は好きになれなかった。

 腹が減っていた俺は、たまたまあった学園に降り立ち草花を食っていた。
そんな時、俺の嫌いな魔法使いが歩いてくる。
咄嗟とっさに隠れたが、簡単に見つけられてしまった。
——汚い、離せよ馬鹿——
言葉が通じないのを良いことに、心の中で毒付く。
そんな俺を、シャーロットは優しく撫でてきた。
暖かい、今まで感じたことのない温もりが俺の中に入ってくる。
ずっと一人だった俺にとって、それはとてもくすぐったくて、暖かかった。
 強力な魔法を使い、俺は倒れてしまった。
朦朧もうろうとする意識の中、シャーロットの荒い息が聞こえる。
走っているのだろうと思いながら重いまぶたをほんの少し開ける。
あと少しで家に着くのか、微かに家の姿が見える。
その近くには牧場と、三つの墓がある。
三つの墓には母親宛と父親宛、祖母宛の手紙があった。
この時俺はコイツは自分と同じ、独りぼっちなんだと思った。
 種族は違えど、俺と同じ境遇のあいつに少しは緊張を解く。
使い魔に誘われて、悪い気にはならなかった。
シャーロットは俺の嫌いな奴らではないから、俺と同じ『ひとり』だから。
俺の嫌うような魔法使い(ばけもの)から、シャーロットを守ろうと思っていた。
シャーロットが傷つくことがないように。

 まさか自分が、その原因になるとは知らずに——