複雑・ファジー小説
- Re: 白銀の胡蝶 ( No.6 )
- 日時: 2015/06/27 13:29
- 名前: 煙草 (ID: 7HladORa)
「君は、不思議だね」
商店街を吸血鬼——改め花蓮と歩いていると、不意に誰かから話しかけられた。
どこかで聞いた事のある、涼しげで儚い声色——
後ろを振り向けば偶然か、千倉柚子が立っていた。
「——千倉か。どうした? こんな時間に」
「天城君こそどうしたの。そんないたいけな女の子連れて」
「あー、コイツはちょっと訳ありっつーか……」
正直、返事に困った。
暇だから公園でのんびりしてたら、こんな可愛い吸血鬼と出会いました——だなんて、口が裂けても言えねぇ。
言ったら言ったで、頭狂ってるだろとか言われかねない。俺はそんなキャラじゃないからな。
ただ、相手は千倉だ。宍戸さんの言うことや屋上での出来事もあって、話は通じるかもしれないが——
「——大丈夫じゃよ。こやつは人間でない」
悩んでいると、花蓮がこっそり耳打ちしてきた。正直言って助かった。
だが同時に、100年もの間吸血鬼として生きてきた彼女が言ったのだ。
俺はもう、千倉は人間ではないと確信せざるを得ない。
「まあ、なんだ。コイツは吸血鬼でさ、さっき公園で会ったんだよ」
「——そ。おめでと」
「何がおめでとだ」
「君、幼女とか好きそうじゃん。付き合っちゃえば?」
「待て待てそれは違ぇだろ! いや好きだけど!」
そうだ、幼女が嫌いな奴なんてこの世には居ない!
でもさぁ千倉さん、表情ひとつ動かさないままそういうこと言うのやめてくれませんかねぇ。
何だか幼女好きが罪みたいになっちまうじゃないか。
「——そうやって公言する辺り、十分犯罪のレベルだと思うのじゃが」
何故か顔を赤らめている花蓮が言う。
「いやいや、幼女は正義だ! もっと言えば、貧乳は正義だ! それ以外の何者でもない!」
「ただの貧乳好きか、お主……」
「どうでもいいけど、大声で言うの止めてくれない? 恥ずかしい」
「——あ」
気付けば、笑ったりドン引きしたりしている通行人から、この上なく痛い視線が注がれていた。
うわー、恥ずかしい。ってか死にてぇ。
ぼろっちい布切れしか纏ってない幼女を連れて、仮にも美女(?)の千倉を前にして。
一体俺は何をしているんだ——
「なぁ、2人とも。宮城県の方向ってどっちだっけ?」
「……お、おおおお主! いくら羞恥的な経験をしたからって自刃するでない!?」
「落ち着いて、天城君。私はそれくらいで、他人を嫌いになったりしないよ」
「余計死にてぇ」
あーもう、穴があったら入りたい。
「——それに天城君、自刃程度じゃ死ねないかもだよ」
「? なんだって?」
「ううん、こっちの話」
今、コイツは何を言っていた?
自刃程度じゃ死ねないってどういうことだ。
自刃したら間違いなく死ぬだろ——
「じゃあね」
「あ、あぁ」
そうこうしているうちに、千倉は闇夜へと消えていった。
——自刃じゃ死ねない? 逆に死ねないのか?
あぁでも、場合によっては死なないのか?
くそ、よくわからん。
千倉の性格を考えると難しいが、多分ネタで言ったんだろう。うん、そうに違いない。
しかしその何気ない一言は、いつまでも俺の心を縛り付けていたのだった。
それと、あいつが出会いがしらに言った言葉——
『君は、不思議だね』
——一体俺の何が不思議だと仰る……何、貧乳ってそんな需要ない?
とまあ、冗談はさておき……花蓮なら、何か分かるだろうか?