複雑・ファジー小説

Re: 白銀の胡蝶 ( No.9 )
日時: 2015/07/03 21:27
名前: 煙草 (ID: 7HladORa)

「それにしても、何で俺なんですか? 俺以外にも素敵な男はいっぱいいるでしょう?」
「あたしの家で一番近いのが君だったんだよ。それに、君も悪くないからね。性格も顔立ちも」
「さ、さいですか……」

 あれから、俺と宍戸さんはどこか飲食店を目指していた。一先ず昼食をとることに決めたのだ。
 その際、他愛もない会話をしていく中で、突っ込みたいことは山のようにあったわけだが——

「そういえば、千倉の事なんですけど」

 真っ先に出てきた単語は、千倉だった。

「なんだい?」
「あいつの正体、ようやく知ったんですよ。胡蝶族なんですよね?」
「あはは、そうだよ。でも、そうなると——君はもう誰か、他に"半人"と出くわしたみたいだね?」
「——半人?」

 訊けば半人とは、何でもないことだった。
 花蓮のような吸血鬼や、千倉のような胡蝶など、そういう人間じゃない者たちの総称だとさ。
 パッと見は人間だが中身は違う——そんな理由から、半人と呼ばれているようだ。

「宍戸さん——」
「ふぅ……」
「?」

 話しかけた途端、溜息を吐かれたので黙りこむ俺である。

「せめて、杏奈さんって呼んでおくれ。仮にもデートの最中だろう?」
「あぁ——なんかすいません。それで、改めて杏奈さん」
「なんだい?」
「やけにその、半人ってのに詳しいんですね。貴方も半人だったりします?」
「あぁ、何を聞くかと思えば——そんなことかい」

 くすくすと笑う宍戸さん——もとい杏奈さん。
 こうしてみると本当に綺麗な人で、人気者だというのも何となく頷ける気がした。

「あたしは半人じゃないよ」
「じゃあ何故?」
「あたしはほら、学校での立場が"あれ"だろう? 必然的に、半人との付き合いも増えるのさ」
「あー」

 納得した。
 半人じゃなくとも、良き相談相手で有名な杏奈さんの顔は広いなんてものじゃない。
 となれば、半人から相談を持ちかけられるのも不思議ではない。

「千倉柚子——あの子もその1人なのさ。余暇に任せて、あたしの元へ遊びに来てくれるのは良いんだけど……」
「彼女が半人だと、知ってしまった?」
「その通りさ」

 ——色々話している間に、俺達は和食店に辿り着いた。
 和食は好きかと問われ、勿論と返す俺に頷いた杏奈さん。彼女に続いて"うまめしや"に入店する。
 中は如何にも和食屋で、ただよう和風の香りが食欲をそそる。
 店員さんに案内され、俺らは店の一番奥で落ち着く。

「何にするんだい?」
「そうですねー……ここは典型的に、定食とかですかね」
「あはは、そうかい。じゃああたしも、日替わりランチでも頼むとするかな」