複雑・ファジー小説
- Re: イノチノツバサ 【オリキャラ募集中】 ( No.1 )
- 日時: 2015/06/21 11:03
- 名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode
【第零章】
その若者は、怯えていた。
半世紀以上前の街跡。倒壊したビルにはツタが生い茂り、アスファルトの割れ目からは木々が姿を現している。
国破れて山河あり。まさにそんな世界の中に彼はいた。
青い龍が雲をまとい、とぐろを巻いたエンブレム。それがあしらわれた彼の防護服は、ところどころ穴があき、地肌が見え隠れしている。
すぐにでも着替えなければ、命が危ない。しかし、人を頼ろうにも、周りには誰もいない。声を上げようにも、周りは天敵で囲まれている。この廃墟の隙間から抜け出そうにも、彼の足は骨が折れていて、身動きの取れない状況だった。
打つ手なし。体が小さく震える音でさえ、今の彼にはうるさいように感じられる。
ガサッ
枯れ草を踏みしめる音がした。もちろん、彼の足音ではない。全身に悪寒が走った。もはや彼の脳裏には、最悪の結末しか浮かばない。
———ヤツらだ……
彼の目の前に現れたのは、血色の悪い獣。どことなくイヌ科の動物にも見えるが、その眼はにごり、口からはよだれが滴り、荒い息遣いが聞こえる。そしてその獣は、彼を見るなり、どこか嬉しそうに低く唸った。
恐怖のあまり、声も出ない。これが最期なのだと目を閉じると、浮かぶのは家族の顔。思い起こされる彼らの笑顔に、彼は涙を流さずにはいられなかった。
———父さん、母さん……大した親孝行もできなくて、ごめんなさい……
彼が、じきに訪れるであろう痛みに、覚悟を決めた時であった。
「————ッ!!」
聞こえたのは、恐らく獣の断末魔の声。何が起こったのか、それを確認しようと彼はうっすら目を開ける。
真っ先に視界に飛び込んできたのは、変わり果てた、先ほどの獣の姿。首と胴体を両断され、赤黒い血が辺りを染めていた。
そして次に目に留まったのは
「大丈夫ですか?」
翼を広げた、赤き不死鳥の紋章。そして、それを誇らしげに胸に掲げる、青年の姿だった。