複雑・ファジー小説
- Re: イノチノツバサ 【オリキャラ募集中】 ( No.18 )
- 日時: 2015/09/09 22:11
- 名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)
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「やっぱり、いい班だよな……」
それは、任務に赴くストレッチャーでのこと。颯天は荷台に乗りながら呟いた。
「いい班……具体的に言うと、どのあたりが?」
聞き返したのは柊。柊は颯天と同じく、拓馬の操縦するストレッチャーに乗っていた。横には、遙もいる。
颯天は柊の問いに対し「うーん……」と言葉を濁しながら、隣のストレッチャーを見つめた。一つ隣では、莉亜の操縦するストレッチャーに、翼沙が乗っている。
そして顔を戻し、遙の方を向きながら呟いた。心なしか目線が、顔より低い所に当てられている気がするが……
「いや……大中小と、バランスのいい班だと思って……」
瞬間、
バシッ
「ふぐぉっ!」
遙の拳が颯天の顔にめり込んだ。
柊には分からなかった。なぜ、遙がいきなり激昂したのか。
拓馬は悟った。人は、コンプレックスには敏感なものだ。颯天の言う「大中小」とは、恐らく女性のあの部分についてだろう。そして、遙が怒ったのは、彼女の評価が「小」だったから。
「ま……待てよ、遙ちゃん。貧乳ってのは、ステータスなんだぜ?絵描きだって、爆乳より貧乳の方が、美術的に表現するのが難しいって……あががが」
柊たちが今までに見たことがないほど、遙の顔は恐ろしいものだった。その顔で、颯天の首に腕を回し、彼の首を締めあげている。颯天は、今にも飛びそうな意識の中、降参の意思を伝えるために、遙の腕をトントンと叩く。
「剣崎さん……颯天さんが死んじゃうから、離してあげて?」
拓馬が言うと、遙は渋々颯天を離した。ようやく息が吸えた颯天は、ゴホゴホとせき込んでいる。
「ゼェ……ゼェ……死ぬかと思った」
「颯天さん……女性にあんなことを言うべきではないと思います」
柊は呆れたように彼を見つめる。
「いや〜、悪かった。調子に乗りすぎたよ。……て言うか、その敬語、やめてくれないかな?俺、一応まだ19で、君らとは一学年分しか変わらないんだから」
颯天の言葉に、柊は目を丸くした。参謀局員の割に若いとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。しかし、そのことを聞くと、親近感が湧いてきた。
「じゃあ、颯天。とりあえず、剣崎に謝ったらどうかな?」
「そうだな。ごめんな、遙ちゃん」
柊の助言通り、颯天は手を合わせて遙に謝罪する。当の遙はというと、まだご立腹のようで、颯天に顔を合わせようとはせず、そっぽを向いていた。
溜息をつきながら、颯天は柊の方を向く。すると思い出したように、颯天は切り出した。
「そうそう。そういえば柊くんって、あの影崎 柾(まさき)さんの息子なんだって?玄武団の団長の、あの?」
ずいぶんと親しげに、颯天は尋ねる。すると思いのほか、柊は暗い面持ちを見せた。
「はい……いや、そうだよ。けど、あの人のことは苦手で……」
柊は敬語を使いかけたので、修正して答えた。言葉を濁す柊に、颯天はまずかったなと、頭を掻きながら口を開く。
「そうか……まぁ、名家に生まれると、それだけのもんが付いて回るよな。大変だよな」
颯天はそう言って、柊の肩をポンポンと叩いた。柊は驚いたように颯天の顔を見あげる。
———この人……俺のことを、分かってくれている……
柊は、今までも『影崎』というこの重圧に、幾度となく悩まされてきた。
『父のように……』『祖父のように……』
口をそろえて皆は言う。その言葉に従い、幼いころの柊は、人の何倍もの努力を重ねた。周りの子供たちが遊びに行く中で、一人だけ早く家に帰り、父や祖父に稽古をつけてもらった。
すべては、玄武団の団長となるために、父や祖父に続くために。そのために柊は、たくさんの対価を支払ってきた。
しかし学んでいく中で、柊はある矛盾にぶつかった。
———どうして、玄武団の精鋭たちが、地上で戦うことは無いのだろう……
帝都で〈帝〉を守る玄武団には、厳しい入団審査が課される。それを乗り越えた彼らは、四兵団でもトップクラスの実力を持っている。しかし彼らが、その力で地上に赴いて敵を倒すようなことはほとんどない。強い者が戦わない……その矛盾を、柊はずっと納得できないでいた。
そんな彼が朱雀団を選んだのは、自然なことだった。
もちろん、周りの反対はひどかった。特に父とは何度も口論になり。今に至るまで不仲だ。
そのようなこともあり、柊はあの家が好きではなかった。
「まぁ、お互い、頑張っていこうや!」
颯天は快活に笑う。幾分か、柊はその笑顔で、心が軽くなるのを感じた。その笑顔に救われた気がした。
「あぁ。ありがとう」
柊は初めて、颯天に対し、心からの笑みをこぼした。