複雑・ファジー小説

Re: イノチノツバサ 【オリキャラ募集中】 ( No.2 )
日時: 2015/06/25 22:58
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode

【第一章】

 それは、今から1000年先の未来のこと。世界はある脅威にさいなまれ、我々人類は、地上を追われた。

 彼らを世界の淵に追いやったのは、新型狂犬病シリオウイルス。その病に冒されたものは、人も動物もみな、自我のない凶悪な野獣になり下がる。人々は地下に都を築き、その脅威を逃れる他なかった。

 やがて、月日は流れる……



+ + +



 3015年 4月

「整列!!」

 人の手を離れて半世紀以上がたつ、荒んだ街並み。その中に低く響き渡る、雷轟のような号令。若者たちは一瞬ビクッと身体を震わせ、すぐさまこちらに走ってきた。

 全員、体をピタッと覆う黒い防護スーツに、シールドバイザー付きのヘルメットを被っている。防護スーツの両脇部分から足にかけては赤いラインが入っており、左胸には赤い不死鳥のようなエンブレムが刻まれていた。どうやら、その色とその紋章が、彼らのトレードマークであるようだ。

 十数名はいるだろう。彼らは横一列に整列した。彼らの前には、上官と思しき男が立っている。その男もまた、彼らと同じ防護服に身を包んでいた。シールドバイザー越しに、その素顔がうかがえる。白銀の髪を頂き、黒く鋭い眼光を放つ瞳、真一文字に結んだ口、その一つ一つが彼の厳しい性格を物語っているようだった。

「全員いるな。それではこれより、朱雀団第81期生 九条班 救助訓練を行う」

「はっ!」

 威勢のいい返事とともに、彼らは敬礼をした。そしてすぐさま直り、3人ずつのグループに分かれて次の行動に移る。

「柊〜、早くストレッチャーに乗ってよ」

 その中にいた一人、影崎 柊(かげさき しゅう)は、後ろから声をかけられたので振り向いた。さらりとした短い黒髪が、小さく揺れる。背筋を伸ばして立つその姿は、彼の気品さを際立たせるが、同時に小柄な体つきも浮き彫りにさせていた。

 柊は凛々しい瞳で、声をかけてきた彼女を見つめる。

「言われなくても分かっているよ、莉亜」

 莉亜・御子柴・アルバーティ(りあ・みこしば・あるばーてぃ)は、名の通り、異邦人の血が混ざっている。色素の薄い栗色の髪は、揉み上げの辺りだけを長く垂らして残りは切りそろえられ、天然の碧眼をした、どこか子供らしさの残る、愛らしい顔立ちだ。

 柊の前に止まっているのは、5・6人乗せられそうな大きさの荷台がついた乗り物。ストレッチャーという名で、超大型のバイクのような形状をしている。莉亜は一見華奢な身体をしているが、豪快にその操縦席にまたがり、柊の搭乗を待っていた。

 柊はステップに体重をかけ、その荷台に飛び乗る。下からは気がつかなかったが、乗ってみると、すでにそこには先客がいた。柊たちのグループの、最後の一人だ。

 彼は柊に比べると一回り大きな身体をしているが、優しそうな雰囲気を持った青年だった。こげ茶色の短髪に、堀の深い顔、そして兄のような優しい眼差しをたたえて柊を待っていた。

「二人とも乗ったね。じゃあ、エンジンをかけるよ」

 莉亜は後部を確認すると、操縦席の下部についているレバーに手を添える。そして、手前側に強く倒す。

 バキッ

 ……という、元気のよい音とともに。

「あ…………」

 莉亜は顔に冷や汗を浮かべていた。彼女の手には、根元からぽっきりと折れたレバーが握られている。

「ははは。また派手にやったな、莉亜?」

「う……うるさいよ、拓馬!!」

 後部から莉亜に笑いかけたのは、二階堂 拓馬(にかいどう たくま)。顔を真っ赤にしている莉亜をなだめるように、彼女の頭をポンポンと撫でていた。

「すみません、九条班長。御子柴がストレッチャーを大破させました」

「そこまでひどく壊してないもん!!」

 事後報告をする柊に対し、莉亜はムキになって答える。そんな3人の様子を見て、先ほど指示を出していた班長・九条 和臣(くじょう かずおみ)は、溜息をついた。

「またお前か、御子柴。仕方ないからその機体は置いて、別のストレッチャーに乗り換えろ」

 皆の嘲笑の中、莉亜は柊と拓馬に促されるまま、別のストレッチャーに移る。今度は正しくエンジンをかけられた。

 エンジンがかかると、ストレッチャーは静かに空中に浮いた。といっても、ほんの数10cm程度だが。

 すべての機体が宙に浮いているのを確認すると、九条は再度口を開いた。

「最後にもう一度訓練内容を確認しておく。お前たちには、3人一組で、ここから半径2キロ以内に設置された負傷者のダミーを3体ずつ回収してもらう。バリケード内だから感染獣はいないが、心して挑むように」

 そう言って、九条は右腕を上げる。ピンと伸ばされた指先は、太陽の光に包まれて輝いて見える。

 その様子を見て、各ストレッチャーの操縦士は、今以上に気を引き締めた。そして静かに、次の指示を待つ。

「健闘を祈る。それでは」

 九条の右腕が振り下ろされた。

「訓練開始!」

 その言葉と共に、彼らは四方八方に飛び出す。胸に添えられた不死鳥のエンブレムが、陽の光に照らされて赤く輝いた。



 今から半世紀以上前、人類は地上を追われた。

 しかし彼らは、大海を、大地を、太陽を、諦めることができなかった。病という名の脅威に抗うため、人類は兵を募った。

 一に玄武団。精鋭部隊からなり、帝都の防衛に当たる者。

 二に白虎団。地図にない、新天地に挑む者。

 三に青龍団。新たな領域を開拓し、失われた世界を取り戻す者。

 そして最後に朱雀団。地上での戦いで、傷ついた兵士を救済する者。

 彼らは四兵団と呼ばれ、それぞれの持ち場で敵と戦い続けてきた。その恩恵で人々は、わずかながらも、地上を取り戻しつつあったのだ。



 時は流れて、現在。彼ら、うら若き朱雀団は、忘れ去られたこの街を、風のごとく駆け抜ける。

 彼らは、戦場に命を運ぶ者。

 ———天駆ける、不死鳥の翼———