複雑・ファジー小説

Re: イノチノツバサ 【参照500突破!】 ( No.22 )
日時: 2015/09/26 22:27
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)

 拓馬は驚いて尻もちをついてしまった。逃げ場のない彼に、感染者は噛みつきにかかる。拓馬は恐怖のあまり、目を閉じた。

 しかし……

 その痛みはやってこなかった。恐る恐る目を開けると……

「……っつ……大丈夫か?」

 颯天の背中と、彼の左腕から滴り落ちる赤い液体が見えた。

「あ……あぁぁぁぁぁぁっ!!」

 颯天は、自分を庇って感染してしまった。取り返しのつかないことだ。そのことに気がつくと、拓馬は叫び声を上げた。

「颯天!!」

「来るな!!」

 加勢しようとする柊を、颯天は一喝して制した。そして、残った右腕で光器を取りだす。

「〈モード・クレイモア〉———起動!!」

 その光の刃は、柊の使う〈モード・ダガ—〉に比べるとずいぶん大ぶりな、大剣の形状をしていた。颯天はすかさずその大剣を、感染者に振り下ろす。しかし、堕ちたといえどやはり人間だ。感染者はその行動を読み、颯天の腕を離すと後ろに大きく跳躍した。その身のこなしは、あまりに人の能力とはかけ離れていた。

 片手で光器を支え、負傷した左手は軽くそれに添える。颯天は正面から感染者に向き合い、睨みあいながら呼吸を整える。

 目の前にいるのは、ただの感染獣とは違い、知性という名の武器を残された悪魔。新人が相手にするには、もてあます存在だ。ゆえに颯天は、一対一で決着をつけようと試みる。

 しばらくのにらみ合いののち、先に動いたのは感染者の方だった。うなり声を上げ、颯天に向かって突進してくる。颯天は周囲を一瞥すると……

「ほらよ」

 先ほどの茂みに、光器を振りかぶった。拓馬と柊には最初の一瞬、その意図が読めなかった。だが、すぐに理解することとなる。

———賢い……

 颯天は、木の葉を目くらまし代わりに用い、敵の視界を奪ったのだ。その一瞬のすきに、颯天は光器を突き出す。

 勝負はすぐに付いた。木の葉がはらはらと地面に落ちてゆくと、その中から感染者の心臓に刃をつきたてる、颯天の姿が現れた。颯天がそのまま光器の電源を落とすと、感染者は静かにその場に崩れ落ちる。相手の沈黙を確認すると、安心したように、颯天もその場に膝をついた。

「颯天!」

「颯天さん!!!」

 慌てて柊と拓馬が駆け寄る。

「すみません……俺のせいで……」

「泣きごと言ってる暇があったら、班長のところに行って、血清をもらってこいよ!!」

 今にも泣きそうな顔をする拓馬の横で、柊は大声を張り上げた。その言葉に、拓馬は慌てて立ち上がる。だが……

「っはは。心配するなって。大丈夫だから」

 そんな二人に、颯天は優しく微笑みかける。その時、柊と拓馬は気がついた。

———おかしい……確かに感染しているはずなのに、発症していない……

 感染獣にかみつかれてから、時間は十分に経っている。しかし、颯天に、瞳孔の開きは見られないし、肌の変色も一切起こっていなかった。

「そんな……どうして……?」

 そう問いかける柊に、颯天は頭をポンポンと撫でながら答えた。

「俺、血清種だから」