複雑・ファジー小説

Re: イノチノツバサ 【参照700突破 感謝!】 ( No.27 )
日時: 2015/10/22 22:42
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)




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 四兵団本部

「み……御子柴さん……その服いったいどうしましたの?」

 明くる日、始業時間ぎりぎりに滑り込んできた莉亜を見て、遙はあきれ顔で問いかけた。

 今日は地上で任務がないので、遙たちは四兵団の制服に身を包んでいた。カッターシャツに、赤色のブレザー、襟元には紺色のネクタイが絞められている。

 きちっとした身なりの遙に対し、遅刻常習犯の莉亜は、ブレザーは着ず、ネクタイも締めず、かなりルーズな服装だった。

「はぁ……はぁ……ごめん、時間がなくて、整えている暇がなかったんだよ」

「いえ、そういう意味で言ったのではありませんの……御子柴さん、何だか今日の服、異様にカピカピしてません?」

 どうやら遙が見ていたのは、そこではなかったらしい。確かに遙の言う通りよく見てみると、莉亜のカッターシャツはのりで固めたようにパリッとしていた。

「あ……えっと……これはその……」

 きまり悪そうに頭をかく莉亜。そこへちょうど通りかかった柊が、莉亜を見るなり、嘲笑を浴びせてきた。

「なんだ莉亜。お前またおしゃれ着洗剤と柔軟剤を間違えたのか?」

 その言葉に、莉亜の顔は急速に赤らんでいった。莉亜の今日の服がごわごわとしている理由は、どうやら柔軟剤と間違えて、洗剤をダブル使いしてしまったかららしい。

「言うなよ〜〜〜〜〜!!」

 半泣きになりながら柊に殴りかかる莉亜。しかし柊は、そんな莉亜の攻撃をかわし、けらけらと笑いながら通り過ぎていった。

「ふんだ!こうやって、ブレザーを着ちゃえば、分からないもんね!」

 ぷんぷんと怒りながら、莉亜はブレザーにそでを通そうとする。しかし、シャツのごわごわに引っ掛かり、思うように通らない。その様子を呆れながら見つめ、遙は莉亜に助言を与える。

「洗剤の分量は、しっかり守った方がいいですわよ?服が傷んでしまいますわ」

 真面目な顔をして語る遙を見て、莉亜は思い出したように(そしてその場をごまかすように)遙に語りかける。

「そういえば……遙ちゃんのお母さんって、あの『錦麗(にしきれい)』のデザイナーなんだっけ?私服も、カラコンも、髪の色もおしゃれだなって、前から思ってたんだ!」

 不意に身内の話を振られた遙は、驚いて目を丸くした。そして、頬笑みを浮かべ、うなずく。

「まさか、ご存知の方いるなんて。光栄ですわ。その通り、『錦麗』は私の母のブランドですの」

「いいなぁ、いいなぁ……やっぱり遙ちゃんお嬢様言葉だし、お金持なの?」

 莉亜はきらきらした目で問いかける。それに対して遙は、少し恥ずかしそうに口を開いた。

「いえ……確かに私の家は第一区にありますが、そんなに裕福ではなくてよ?」

「え〜うそだ〜」

 遙は謙遜しているが、莉亜は確信していた。帝都は29の区に分けられて、それぞれ統治されている。その中でも第一区と言えば、帝都の最深部である宮廷に最も近い、高級住宅街だ。そこに家を構える遙の家が、裕福でないはずがない。

「本当に裕福ではないのよ。……お父様はすでに亡くなっておられますし……」

 目を伏せる遙を見て、莉亜はしまったと思った。莉亜が何と言おうかと困っていると……

「……このことは内緒ですわよ?」

 彼女は笑い、唇に人差し指を押し当てた。そしてその場を去ってゆく遙の背中を見て、莉亜は何も言うことができず、その場に立ち尽くしていた。遙の背中が見えなくなって、莉亜はぼそっと独り言を垂れる。

「……お父さん……か……」