複雑・ファジー小説

Re: イノチノツバサ 【参照700突破 感謝!】 ( No.29 )
日時: 2015/10/31 16:44
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)

第五章

「すみません」

「はい、何ですか?」

 同日、地上任務がなかったので、拓馬は四兵団本部に出勤していた。本部内をぶらぶら歩いていると、別兵団の二人組に呼び止められた。

 片方は、どこかで見たような、眼鏡のひ弱そうな男。そしてもう片方は、さらりとした黒髪に、きりっとした瞳がよく映えた美青年だった。二人とも、白虎団の制服に身を包んでいる。

 男はおどおどした様子で、青年の背後にぴったりと張り付いている。態度から察するに、この青年は眼鏡男の部下のようである。

「九条班……という班について、何かご存知ですか?良ければ、彼らに会いたいのですが……」

 青年の方が問いかけてきた。ピンポイントで聞かれたため、拓馬は驚いた表情を見せる。

「はい。僕は九条班の者ですが……」

 拓馬の返事に、今度は青年たちの方が驚いた。

「おやおや、こんな偶然があるものなのですね……」

 感慨深そうに、青年が呟く。そのまま、感動の余韻に浸っている様子だった。すると、脇に控えていた眼鏡男が、青年の背中をちょいちょいとつつく。

「おっと……僕としたことが。名乗り遅れました。僕の名は海藤 義仁(かいどう よしひと)。どうぞよろしく」

 青年・義仁は、姿勢正しく一礼し、拓馬に握手を求めてきた。拓馬も慌ててその手を取り、名乗る。

「はじめまして。二階堂拓馬です」

 拓馬が名乗ると、義仁はニコリと微笑んだ。優しそうな印象だ。ついその笑顔に見入ってしまい、拓馬は本題を忘れていた。慌てて我に返る。

「そういえば先ほど、九条班の班員に会いたいとおっしゃっていましたが……いったい、どのようなご用件で?」

 拓馬が話題を戻すと、相手方も思い出したように答えた。

「おっと、話題がそれてしまいましたか。なに、先日、僕の部下が九条班の方にお世話になったそうで、仕事ついでに、部下ともどもお礼に参った次第ですよ」

 義仁はそう話しながら、傍らの男の方に手を置く。恥ずかしそうに顔を伏せるその男の顔を見て、拓馬もようやく思い出した。

———この人、前に柊たちが連れてきた……

 その男は、数日前の陽動作戦で、柊と翼沙が連れ帰ってきた白虎団の兵士だった。あの時、彼は常にペコペコ頭を下げていたので、そういえばしっかりと顔を確認していなかったように思う。

 しかし、こうして近くで面と向かってみても、相変わらず彼の態度は謙虚であった。拓馬は小さく苦笑する。

「ところで……影崎くんと、霧崎さんはいらっしゃいますか?彼らにも伝えたいことがあるのですが……」

「あぁ、それでしたら……」

 拓馬が案内しようと、手を差し出した瞬間……

「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「うわぁぁっぁぁぁっ!!!!!」

 聞き覚えのある絶叫が、辺りに響き渡った。

「……近くにいるようです。ご案内します」

 拓馬が苦笑いを浮かべると

「……お願いします」

 義仁も引きつった笑みを浮かべていた。