複雑・ファジー小説

Re: イノチノツバサ 【オリキャラ募集中】 ( No.3 )
日時: 2015/06/27 21:12
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)



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 ストレッチャーは音もなく、空中をすべるように3人を乗せて走っていた。

「一体目、発見〜♪」

 不意に莉亜は、歌うような声色で言った。柊と拓馬は彼女の言葉に反応し、辺りを見回す。しかし、ダミーの姿は目に留まらなかった。

「相変わらず、猛禽類並みの視力のよさだな」

「誰が脳筋だって!!」

「莉亜。『のうきん』じゃなくて、『もうきん』だよ。猛禽類は、タカやワシの仲間のこと」

 柊の言葉に言い返したところ、すかさず拓馬に指摘され、莉亜は頬を膨らませた。そして顔を赤らめ、「し……知ってるもん」と弱々しく呟く。

 そんな会話をしている内に、柊と拓馬の目にも、最初のダミーの姿が見えてきた。黒色のマネキンだ。予算がないのか知らないが、なかなかに大雑把なデザインである。

 第一発見者の莉亜は、得意顔でストレッチャーを寄せ、ダミーのそばに着地させた。走行中同様に、ストレッチャーは音もなく地面に足をつける。

 真っ先にストレッチャーから降りたのも、莉亜だった。浮足立ちながらダミーに近寄り、手を添える。

「さ〜て、運ぶよ……って重っ!!」

 莉亜はダミーの襟元をつかみ、驚嘆の声を上げた。呆れた顔で柊と拓馬が近寄り、とりあえず莉亜をダミーから離す。

「本番を想定しているんだ。重量も、成人男性並みに作ってあるんだろうね」

「先にストレッチャーに戻っていろ。俺と拓馬で運ぶ」

 莉亜は渋々その手を引き、大人しくストレッチャーの方に下がっていった。残った柊と拓馬は「せーのっ」という掛け声とともに、ダミーを持ちあげる。そしてストレッチャーの荷台に、ベルトで固定して載せた。

「よし……出していいぞ、莉亜」

 作業が終わった柊は、すぐさまストレッチャーに乗り込み、操縦席の莉亜に伝えた。

「オッケー。それじゃ……」

 ビーッビーッ

 莉亜がエンジンを再起動しようとしたまさにその時、ストレッチャーに搭載されていた警報ブザーが、けたたましく鳴った……



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 九条が入ってきたのは、さびれた街並みには似つかわしくない、比較的最近立てられた建物だった。その建物の特徴は、周りの廃墟とは違い、地上で唯一、施設として機能していること。

 〈新薬開発・総合研究課〉通称 薬課。シリオウイルスに関する、一切の研究を担う機関だ。薬課は四兵団とは別組織だが、その結びつきは強い。そのため、四兵団が地上に出るために使用する第一昇降口は、彼らの研究所内にあった。

 九条は防護服のまま中に入り、研究所内の地上支部指令室に入る。中にはモニター画面がいくつも並んでいて、設置カメラからの映像により、外の様子が分かるようになっていた。彼は画面越しに、班員たちの様子を確認する。

 画像の中には、大がかりなフェンスが映っているものがあった。———バリケード———感染者と人間を隔てる境界線だ。鉄条網には高圧電流が流れ、外部の敵が近づけないようになっている。

 ふと、九条はある画面に目をとめた。そこに映っているバリケードに、何やら違和感を覚えたのだ。すると次の瞬間……

 プツンッ……

 画面の一つが、突如暗くなった。一瞬の残像でも、九条はしっかりと確認していた。

 画像が途切れた最後の瞬間、そこには猿のような感染獣が映っていたのだ……