複雑・ファジー小説
- Re: イノチノツバサ 【参照800突破 感謝!】 ( No.30 )
- 日時: 2015/11/10 21:11
- 名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)
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とりあえず、悲鳴の聞こえた方向に足を進める拓馬たち。
「ちょっと柊!降りなさいよ!男でしょう!」
「馬鹿!男でも、無理なもんは無理だ……って、うわ!登ってきた!!」
拓馬は、嫌そうな顔をしながら部屋の中に顔を出す。するとそこには、机の上に土足で登って、身を寄せ合って震えている、情けない幼馴染たちの姿があった。
「ったく、ギャーギャーうるせぇな……」
呆れた様子で、奥から翼沙がガムテープを持って現われた。長さを取ってそれを切り取り、えいやっと机の脚に張り付ける。
「ほら、捕まえたぞ、ゲジゲジ」
「裏面を見せてくるなよ!!」
翼沙の手にしたガムテープには、うねうねと動こうとするゲジが捕らわれていた。何本もの節足が、ガムテープの粘着物質に絡みつき、逃げられそうにない。しかし、その腹面は、なかなかグロテスクな様子だった。
「ん?」
ゲジ騒動が落ち着いたところで、翼沙はようやく拓馬たちの存在に気がついた。つられたように、柊と莉亜も、その姿を確認する。
「な……なんだよ拓馬。いたのか……」
「相変わらずだね、柊……」
頭を掻きながら、机から足を下ろす柊。横の莉亜も、恥ずかしそうに顔を伏せていた。
「はぁ……すみません、海藤さん。騒がしいヤツらで……」
呆れながら振り向く拓馬の様子を見て、ようやく柊たちも客人の姿を確認する。そして、顔を赤らめた。
「なんだよ、拓馬。人がいるんなら、最初にそう言えよ」
「この人たちがくる頃にはすでに、騒動のさなかだったんだよ」
柊は目線を反らしながら、あいさつを交わす。
「見苦しいところをお見せしてすみません……朱雀団 九条班所属 影崎柊です……」
その言葉に、義仁たちは驚いた表情を浮かべた。この眼鏡男の話では、翼沙はともかくとして、柊も勇敢な新兵だと聞いていたのだが……
「その……多足類には、得も言われぬ恐怖があるじゃないですか……」
必死にいい訳を垂れるその姿は、あまりに間抜けであった。義仁はあきれながらも本題に入る。
「き……君が影崎君ですか……先日、うちの部下がお世話になったので、お礼に上がりました……」
ぎこちなく自己紹介をかわす二人。翼沙はその様子を見て、大きな声を上げて笑った。
「ははははははっ。命の恩人が、このざまかよ」
「なんだと!失礼な!」
「お?そんなこと言っていいのか?ほ〜ら、ゲジゲ〜ジ♪」
「やめろぉ———————!!」
子供のように走り回る二人を見て、義仁はめまいを覚えた。これほど人に頭を下げるのが、拒まれた経験は無い。義仁は信じられないというように、そんな彼らの様子を見つめていた。