複雑・ファジー小説
- Re: イノチノツバサ 【参照800突破 感謝!】 ( No.31 )
- 日時: 2015/12/06 20:07
- 名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)
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とりあえずゲジはゴミ箱にポイとやり、ようやく一同は落ち着いた。先ほどの机を台拭きできれいにし、お茶を並べる。
席に着くと、義仁が一つ咳払いをしてから語りだした。
「大変なところに来てしまったようですね……改めまして、僕は海藤 義仁。白虎団中隊長を任されています」
さらりと言ってのける義仁に、一同は目を見張った。中隊長と言えば、四兵団の中でも熟練者ぞろいのレベルだ。
「お若いように見えますが……すごいですね」
柊の見たところ、おそらく20代であろう。称賛に対し、義仁は意味もなく前髪を掻きあげる。
「四兵団は実力主義ですからね。僕もエリートに分類されているようです」
瞬間、柊たちの表情が、唖然と固まる。
———自分で言っちゃうんだ……それ……
自分に酔いしれている様子の義仁を見て、一同は彼の人となりを思い知らされた。苦笑を押し殺し、歪な表情を浮かべる。
かく言う義仁は、どうやらそんなことに気がついていないらしい。平然とした面持ちで、動じなかった。
わずかな沈黙の中、ふと眼鏡男が、義仁の肘をちょいちょいとつつく。
「そうでした。うっかり、大切な用事をお伝えし損ねるところでしたよ」
はっとしたように言う義仁。そこでようやく柊たちは、彼がわざわざ礼を言うためだけに、ここまで足を運んできたのではないのだと悟る。……自慢話を聞かなくて済むと思い、内心ほっとした。
「用事……というのは?」
「なに、任務への同行依頼ですよ」
ニコリと微笑む義仁に対し、表情をこわばらせる柊。そんな様子を見て、横から先ほどの眼鏡男が口をはさんだ。
「そんなに大げさなものではありません。機構から、白虎団に地質調査依頼があったので、万全を期すためについてきてほしいのです」
地質調査と聞き、柊も少し緊張を和らげた。そんな表情を確認して、男はさらに任務の詳しい内容を説明する。どうやら、未探索にも等しいエリアに赴くそうだが、前回のように戦闘をメインとする任務ではないらしい。
説明の合間にメモを取り、話が終わると柊は顔を上げた。
「なるほど。分かりました。班長の同意を得られたら、同行させていただくことにしましょう」
「ありがとう。くれぐれもよろしく頼みますよ」
義仁たちはそう言って、出されたお茶を飲み干すと、そのまま部屋を出ていった。バタンとドアが閉まるのを見届けて、柊たちはようやく肩の力を抜いた。
「ふ〜〜〜」
細く息を吐きながら、横目に翼沙を見る。任務の内容が気に入らなかったのか、ふてくされた顔をしていた。
「んだよ、つまんねぇ」
「そう言うなって。これも大切な任務だ」
翼沙をなだめ、そのまま柊は席を立つ。
「じゃ、俺、ちょっと行ってくるな」
そして、メモを片手に、さっそく九条のもとにこのことを報告しに行くことにした。部屋を出る柊を、三人は手をひらひらと振って見送った。
新しい仕事に、柊は胸の高鳴りを隠しきれずにいる。そのため彼の足取りは、いつもよりも軽やかであった。
———機構からの依頼か……
移動中、柊はメモをちらりと見ながら思い起す。
———そういえばアイツ、元気かな……?