複雑・ファジー小説

Re: イノチノツバサ 【参照1000突破 感謝!】 ( No.33 )
日時: 2015/12/27 22:50
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)

 頼弥が振り向くとそこには、中学時代の同級生・影崎 柊が立っていた。柊は四兵団の士官学校に、頼弥は機構の専門学校に進んだため、卒業後は離ればなれになったが、お互いに就職の話は聞き及んでいた。3年ぶりの再会である。

「どうしました?何か、直してほしいものでも?」

 “今は休憩時間中なのですが”というニュアンスをこめて柊の方を見つめる頼弥に、柊は小さく苦笑しながら答える。

「相変わらず、正直な気持ちをさらけ出すのが苦手なんだな。……なんだか、変わってなくて安心したよ」

 それは嫌味なのだろうか、頼弥はほんの僅かに顔をしかめる。柊はというと、頬笑みを浮かべたまま、彼の隣に座った。

「実はさっき、機構からの依頼が舞い込んできたんだ。それでふっと、お前のことを思い出して、会いに来たんだ。……もしかして、邪魔だったか?」

 心配そうな表情を浮かべる柊に、頼弥は慌てて首を振った。

「そうでしたか。会いに来てくれて、ありがとうございます、柊」

 そして微笑を浮かべる。この表情の乏しさも相変わらずだと、柊は心の内に懐かしく思った。

 柊がそんな風に頼弥を見つめていると、彼は思い出したように口を開く。

「そういえば、柊。聞きましたよ!何でも、朱雀団に入ったとか……」

 頼弥は珍しく、驚愕の表情を浮かべていた。その様子を見て、柊も思い出す。

———そうか、中学のころはまだ、玄武団を目指していたんだっけ……?

 あいまいな記憶をたどり、そんな気もすると結論づけた。あの頃の自分からしたら、おそらく今の自分の状況など、考えもしなかっただろう。人とは、変わるものだ。

「……でもまぁ、朱雀団の方が、俺に合っている気がするんだ。だから、これでよかったんだよ」

 柊は、穏やかな表情を浮かべていた。彼なりに、色々な経験をしたのだろう。そうくみ取り、頼弥は何か、言葉を返そうとする……が、

「お〜〜〜〜い、雨宿!いつまで休んでいるんだ?」

 タイミング悪く、声が聞こえてきた。きまり悪そうにコーヒーを飲みほし、流しにカップを運ぶ頼弥。そんな頼弥を見て、柊も腰を上げた。

「忙しい時に、悪かったな。それじゃ」

 遠慮して、そそくさと出ていこうとする柊。

「あ、待ってください、柊」

 その背中に、頼弥は反射的に呼び掛ける。まだ何かあったかと、振り返る彼に、頼弥は小さな声で告げる。

「その……いろいろ、頑張ってください。応援しています!」

 意外な言葉に、一瞬、驚きの表情を浮かべる柊。しかしすぐに笑顔になり、

「あぁ。ありがとう」

 力強くうなずいた。

 去りゆくその背中を、頼弥は黙って見つめた。

「朱雀団……か」

 それは、羨望にも似た眼差しだった