複雑・ファジー小説

Re: イノチノツバサ 【オリキャラ募集中】 ( No.4 )
日時: 2015/07/04 20:23
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)




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『警告。バリケード内、西方エリアに感染獣が侵入。朱雀団訓練生は直ちに帰還。青龍団は迎撃態勢に入れ。繰り返す、西方エリアに……』

 無線機からの通達は、柊たち三人の表情を急速に曇らせた。

「西方エリアって……ここじゃないか!莉亜!すぐに離れよう!」

 拓馬は、莉亜をせかすように声を上げた。しかし当の莉亜は、遠くを見つめたまま動かない。

「……何が見えているんだ?」

 半分察したように、柊が問いかけた。莉亜の表情は、不安の影が濃くなる。

「……遙ちゃんの組が……」

 どうやら莉亜が見つめていたのは、彼方で危機に瀕している仲間の姿だったようだ。柊はその返事を聞くなり……

「代われ、莉亜。目標までの角度と距離は?」

 莉亜に代わって操縦席に座った。拓馬は一瞬制止に入ろうとするが……

「太陽に向かって、右方78度、距離1.1キロメートル!」

「よし!飛ばすぞ」

 すでにストレッチャーは動き出していた。二人の意思によって。

———後で班長にどやされても、俺のせいじゃないよな……?

 そんな二人の背中を見つめ、拓馬は心の内に、先ほどとは別の不安を抱えていた。



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———はてさて、困りましたわ。

 彼女は焦っていた。本部からの警告が入ったときにはすでに、彼女たちはこの猿のような野獣に遭遇してしまっていた。すぐにストレッチャーを引き返して逃げていたが、感染獣との距離は縮まるばかりであった。

———まったく……司令塔も当てになりませんわね!

 彼女は、黄金色の髪の下からのぞく、目じりの垂れた薄桃色の双眸で、その感染獣を見つめる。それは、よだれを滴らせ、執念深くこちらを追跡していた。

「どうしよう……遙ちゃん」

 操縦席に座っていたチームメイトが、消え入りそうな声で呟いた。もう一人の仲間も、膝を抱えて震えている。

「……追いつかれるのは、時間の問題のようですわね……」

 そんな二人をしり目に、剣崎 遙(けんざき はるか)は荷台の上に立ちあがった。ほっそりと華奢ながらも、気品と勇ましさに満ちた背中だ。そのしなやかな両手には、筒状の金属製の装置が握られている。

「〈モード・ダガー〉———起動!!」

 遙が装置を起動すると、プラズマ刃が現れた。赤白い輝きを放つ幻想的な光線が、遙の手元から真っ直ぐに伸びている。その光はちょうど、片手剣のような形を保っていた。

 〈可変形式光器〉———通称 光器。柄の部分を変形することで、槍や剣など、さまざまな形になる。対感染者用に生み出された、四兵団専用武器である。

「速度を落としてくださいな。私が交戦いたしますわ」

 言われるままに、操縦者はストレッチャーの速度を落とし始める。敵との距離は、確実に縮まってゆく。それに反比例して、仲間たちの震えは増大していった。

 冷静な遙と、怯える他の二人の差。それは単に実力の違いだった。朱雀団第81期入団兵207名。同期生といえど、個々に戦力差はある。戦力差があれば、当然序列を生む。

「覚悟なさいませ!!」

 十分に敵との距離が縮まったとき、遙はストレッチャーから飛び降りた。着地の際に崩れたバランスを修正しつつ、感染獣にめがけて走る。追い風が、彼女の背中を押した。

剣崎 遥———朱雀団第81期 入団ランク第32位

 感染獣は、正面から遙に向かって突進してくる。遙はぎりぎりまで敵をひきつけ……

「はっ!!」

 すれ違いざま、感染獣の進路をよけるように、斜め前に飛び出した。同時にプラズマ刃で、敵の喉元を狙う。しかし、相手との距離を取り過ぎていたようだ。肩に軽い傷を負わせただけだった。

 遙は無理やりに足を止め、急いで振り返る。が……

「!?」

 感染獣の俊敏さは、遙の想像を上回っていた。感染獣は素早く方向転換し、再度遙に向かって突進してきた。遙はとっさに横に飛びのき、もう一度感染獣の攻撃をやり過ごす。

———訓練通りには……いきませんわね……

 遙はここに来て初めて認識した。ここは地下ではない。これは訓練ではない。今、自分が対峙しているのは、血に飢えた猛獣———感染獣なのだと。