複雑・ファジー小説

Re: イノチノツバサ 【オリキャラ募集中】 ( No.5 )
日時: 2015/07/11 21:57
名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)

 遙はもう一度、光器を握りしめた。そして、確実に敵との距離を保つ。

 不意に感染獣が、遙に飛びかかってきた。遙は光器を縦に振り、攻撃したと同時に後ろに飛びのく。今度は、猿型感染獣の右手首を切断した。痛覚はあるようだが、狂える猛獣に怯む気配は見られない。感染獣は、隙を見計らって、こちらの周りをくるくると回っている。

———手ごわいですわね……

 遙は、手に汗を握っていた。その緊張は、仲間を守らねばならないという使命感と、敵への畏怖から来るものだった。

———切りこむべきかしら……でも……

 それは、感染への恐怖からくる迷い。大胆に踏み込めば、深い傷を与えることもできるだろう。しかし、少しでも怪我をすれば、命の保証がない。咬まれればもちろんのこと、防護スーツに穴が開いただけでも、服の中にウイルスに感染した虫に入り込まれ、感染する可能性がある。

 遙が考えている間にも、感染獣はまた襲ってきた。遙は再度攻撃を加えつつ後退する。今度は、感染獣の鼻先をかすめただけだった。

 しかしその時だった。

———この感染獣……まさか……!?

 遙が、重大な仲間の危機に気がついたのは。

 それは位置関係。先ほどからの感染獣の攻撃は、単に遙を狙っていたのではない。遙と仲間の間に入り込み、組の中で最重要戦力の彼女だけを引き離すのが目的だったようだ。

———猿の知能が、残っているようですわね!

 遙は、気がつけば感染獣に向かって飛び出した。しかし、ヤツは一瞬こちらを見据えただけで、すでにストレッチャーの方へと走り出している。

 ストレッチャーに乗っている仲間たちは、恐怖に凍てついた表情だった。

「くっ……うぁぁぁぁぁぁっ!!」

 遙が叫び、感染獣に向かって、届かない手を伸ばしたその時……

 ヴゥンッ

 横から飛んできた、光の刃が、感染獣の腹部を貫いた。

「拓馬!運転は任せたぞ!」

「えぇっ!?ちょ、そんな無茶なっ!?」

「わ!揺らさないで———ふんぎゃっ!!」

 彼らの声が聞こえるなり

「きゃぁんっ!?」

 遙の細い体は、突然現れた風圧に巻き込まれ、吹き飛ばされた。感染獣と彼女の間に、別のストレッチャーが割って入り、猛スピードで通過していったのだ。地面に倒れ込みながらも、慌てて顔を上げると……

「〈モード・ダガー〉起動!!」

 砂埃の中、突如そこに姿を見せた柊が、光器を構えて立っていた。感染獣は新たな敵を認識し、こちらを振り返る。しかし……

「遅ぇ……っ!!」

 振り返り切る前には、柊は感染獣の首を切り落としていた。光器を起動させた時にはすでに足を踏み出し、振り向くまでには距離を詰め、最小限の力で光器を振り上げて切断する。あらかじめシュミレーションされていたように、無駄のない動きだった。

「いきなりストレッチャーから飛び降りるなよ!危ないだろう!?」

 遙が柊の凛とした背中に不覚にも見とれていた時、不意に別の青年の声が聞こえた。声のした方を向くと、ストレッチャーのハンドルを握る拓馬と、先ほどの衝撃で頭を打ったらしく気絶している莉亜の姿が確認できた。

「すまん。……いや、それより剣崎。大丈夫だったか?」

———『それより』ってどういうことですの?御子柴さん、気絶してるじゃありませんの?私より重症でしてよ?

 確かに、柊が助けてくれたことは事実だ。しかし、だからと言って、柊のデリカシーのなさは常識を逸脱している。

「ええ……無事でしたわよ」

 だから、遙は、ありったけの皮肉をこめて、吹き飛ばされたことへの返礼を述べた。

「無事でしたわよ……あなたが来るまでは!」